Sony Readerは「ポケットに、本棚を」を実現したのか:元麻布春男のWatchTower(2/2 ページ)
Sony Readerが店頭に並んでから10日ばかりが過ぎた。筆者が購入した5型のPocket Editionを中心に、その現状を確かめた。
有料コンテンツはMy Sony IDとひも付けされる
このReader Storeだが、利用には基本的にMy Sony IDが必要となる。My Sony IDは、ソニー製品利用者のためのポイント付きの会員制度(登録等は無料)で、ソニー製品のユーザー登録、ソニーストアでのショッピング、ソニーファイナンス発行クレジットカードの利用、メールマガジンのアンケートなどでポイントを獲得することができる。獲得したポイント(ソニーポイント)は、ソニー関連の製品やサービスの支払いに充当することが可能なほか、ANAのマイルやEdyに交換することもできる。Reader Storeでの支払いも、このソニーポイントか、クレジットカードとなるが、ソニーポイントを直接購入する方法(プリペイドカードなど)は用意されていないため、よほどのソニーファン(毎月どんどんソニーポイントがたまる)でない限り、電子書籍の購入にはクレジットカードが必須と思っておいた方がよい。
今Readerを購入し、ユーザー登録することでも、500円に相当する500ソニーポイントが得られ、Storeでの電子書籍の購入にあてられるのだが、そのためにはMy Sony IDを作成し、そのIDでログインしがなければならない。My Sony IDでログインすることで、コンテンツを特定のMy Sony IDにひもづけすることが可能になる。
Reader Storeで販売されている電子書籍は、購入時にここでひもづけされたMy Sony IDと同じMy Sony IDで認証されたReaderでしか読むことができない(機器認証は最初にReader Storeで電子書籍を購入する際に行われる)。逆に言えば、コンテンツはMy Sony IDを利用して暗号化されたファイルでしかないので、ファイルとしてのバックアップは、比較的簡単に行うことができる。
実際に利用して見えてきたもの
とりあえず筆者も、もらった500ポイントを使って、Reader Storeで電子書籍を購入してみた。また、青空文庫から青空文庫形式のテキストファイルを入手し、Readerに転送して読んでもみた。
その経験から筆者は、このPocket Editionは、基本的にReader Storeで購入した書籍を読む端末だと感じている。青空文庫形式もReaderで表示することは可能だが、青空文庫形式を理解した上での表示ではないから、当然ルビなどがきちんと扱えない。また、Reader上でのテキストファイルの表示が横書きになるのも、いまひとつな点だ。テキストを表示するデバイスとしては、E inkに優位性があるものの、フォーマットを理解して表示可能なビューワアプリ(NagisaWorksのi文庫HDなど、別売)が用意されている点で、長時間の読書に不向きなバックライト付きの液晶ではあるものの、iPadの方が書籍の雰囲気が出る。
PDFも、ディスプレイサイズに合わせて自分で作成したファイルならともかく、一般に配布されているA4やレターサイズを前提にしたPDFは、ディスプレイが小さすぎて、拡大しない限り読むことは難しい。そして、拡大表示した場合の操作性が決してよいとは言えないため、ストレスがたまる。
JEPGやPNGといった画像を表示させる場合、ZIP化したファイルをそのまま転送することができず、一度フォルダに解凍しなければならない点が不便だ。EPUBをサポートしているということは、ZIPファイルを扱うことは可能であるわけだから(EPUBは、XHTMLによるコンテンツとメタデータをZIPでまとめたもの)、何とかしてほしかったところだ。
上述したように、転送にeBook Transfer for Readerを使うと、画像が1つのフォルダに突っ込まれてしまうため、管理がしにくくなる。いわゆる自炊をメインに考えているユーザーは、メモリーカードが利用できて(ファイルやフォルダの管理がしやすい)、画面サイズが大きいTouch Editionの方が適していると思う。通信機能を持たないReaderで、それに代われるものがあるとしたら、メモリカードしか考えられないからだ。現在、Touch Editionの方が売れているのもこれが理由なのだろう。
コンビニや駅の売店的な品ぞろえの「Reader Store」
では、Reader Storeで売られている電子書籍を読む端末としてのPocket Editionだが、この前提に立つ限り、ハードウェアとしては決して悪くない。テキストファイルと違って、.mnhや.zbfで配布される電子書籍は縦書き表示されるし、ルビも正確に再現される。E inkの見やすさとあいまって、これなら読書しようという気になる。
現状での問題は、せっかく読書しようという気になっても、用意されている書籍があまりに少ないことだ。Reader Storeで販売されている書籍は事前の説明では2万冊ということだったが、どうやら現状ではその半分程度にとどまっているようだ(「「Reader Store」と「TSUTAYA GALAPAGOS」の“蔵書点数”を数えてみた」を参照)。当初のもくろみ通りの2万冊がそろっていたとしても、その2万冊は自分が読みたい、興味のある2万冊ではない。米AmazonのKindleが販売する書籍の点数は、70万冊を超えているという。が、それでも少し古い本を探すと、電子版が用意されてないケースが多いことを思い知らされる。2万冊という数は、個人の蔵書としてはなかなかのものだが、書店のストックとしては、全然足りないのだと痛感する。ましてや、現状のReader Storeではその半分程度であることを考えると、一般の書店と同じようにはいかない。
例えば新聞や雑誌の書評欄に載っていた書籍をちょっと読みたいと思っても、今のところReader Storeでその望みをかなえるのは難しい。読みたいと思っていた本をラインアップからピックアップするというより、電子化された書籍の中に何か読む気になる本がないかを探す、という感覚になる。現状のReader Storeは、コンビニや駅の売店的な品ぞろえで、確かにそれは幅広い読者に支持されるものなのかもしれないが、本好きや読書家向きとは言い難いように思う。
使い勝手の向上とストアの充実に期待
そして、もう1つの問題は、この2万冊の書籍でさえ、望むものを見つけるのが難しい、ということだ。本校執筆時点でReader Storeのトップページには、特集、ランキング、ジャンル別、著者別の分類が用意されている。特集やランキングは扱う本の数は限られており、あらかじめ読みたい本がある場合は、ジャンル別あるいは著者別から探すことになる。著者が決まっているのであれば、著者別から探すのが手っ取り早い。しかし、もう少しファジーに本を探す場合、ジャンル別で探すことになるのだが、これが使いにくい。
現時点での「ジャンル」は文学、社会・経済・法律、語学、人文・教育・歴史、児童書、コンピュータ/デジタル機器、医学・福祉、両校機/紀行、趣味/生活/ガイド、くらし/実用、ファッション・美容、スポーツ、エンターテインメント、その他の14分類となっている。そのうち、文学の場合、国内の小説も翻訳小説も、ミステリーから恋愛小説、さらにはエッセイまですべていっしょくたになっている。細かなサブカテゴリーが記述されていることからすると、将来的にはサブカテゴリーごとに分類されることになるのだろうが、今のところサブカテゴリーをクリックすることは一部を除いてできない。
ようやく興味を持った書籍を見つけたら、中身を確認したくなる。Reader Storeにも試し読みの機能はあるのだが、あまり使い勝手がよろしくない。その最大の理由は、試し読みもReaderでしか利用できないからだ。前述したように、Reader StoreのコンテンツをPC上で利用することはできない。したがって、試し読みの手順は、PC上のブラウザを使って本を探し、試し読みをダウンロードし、ReaderをPCから取り外し、Readerで試し読み部分を読む、という流れになる。PCからReaderを取り出すと、Readerは転送されたデータの読み込みと、XMLによるメタデータの作成(どこまで読んだか、といったデータを記録するためだろう)を行うために、しばらく同期動作を行う。試し読みといっても、手続きは書籍を購入するのとほとんど変わらず、手軽にパラパラと中身を確認するという感覚からはほど遠い。せめて試し読みだけでもPCのブラウザ上でできるようにしてほしいと思う。それは通信機能を持たず、直接、端末で書籍を購入できないReaderでは、不可欠な機能ではなかろうか。
筆者は、Pocket Editionの小ささ、軽さには満足している。冬場であれば、気軽に上着のポケットに入れて、持ち運ぶことが可能だ。内蔵フォントは少し細身な気もするが、視認性を損なうほどではない。小さな画面もReader Storeで売られている書籍を読むのであれば、ほとんど苦にならない。
それだけに、Reader Storeの品ぞろえが、今後どれだけ充実するかが、このデバイスのカギを握るように思われる。ソニーは2004年にリリースした電子書籍端末LIBRIeで、コンテンツをそろえられずに苦杯をなめた経験を持つ。それだけに、今回は同じ轍(てつ)を踏まないと期待したいところだ。
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