MR.BRAINの隠れた主役“テーブルPC”に触ってきた(2/2 ページ)
この春にTBSで放送された「MR.BRAIN」では、登場する機材のリアリティが話題に。そこで、PC USERは木村拓哉さんが演じた“九十九龍介専用”テーブルPCのレビューに挑んでみた?
(PC USER的に)MR.BRAINの主役「テーブルPC」に触ったっ
MR.BRAINの主役である脳科学者「九十九龍介」が使っていた「テーブルPC」も、撮影中は実際に操作しながら演技を行っていた。ただ、この“テーブルPC”は、ほかのラボに設置されていた通常タイプのPC(実際にはシンクライアント)とは異なり、タッチ式の大画面ディスプレイや独自にデザインされた「OS」など、実際には市販されていない近未来的なPCとして設定されている。
このPCに導入されたOSのインタフェースもデザインした谷川氏によると、風車のようなデザインを採用した「スタートボタン」が起点となってファイルを開いていく構成で、風車の羽根の1枚1枚がフォルダに相当するという。フォルダを開いて表示されるのは「データファイル」で、そのフォームをタップすると、関連付けられたアプリケーションが起動するのはWindowsやMac OSが目指した“オブジェクト指向”のOSと共通だ。

MR.BRAINで最も重要なセットともいえるIPSの「法科学第5部 脳科学研究室」と(写真=左)、そこに設置された、このドラマのもう1つの主役“テーブルPC”。ロジクールの「diNovo Edge」が用意されているが、ほとんどの操作はディスプレイをタップすることで行える(写真=右)

風車のようなアイコンが、Windowsでいうところのスタートボタンに相当する。羽根の1つ1つがフォルダを示している(写真=左)。羽根をタップすると、そこに保存されているファイルが関連付けられたアプリケーションによって開き(写真=中央)、さらに、そのフォームをタップすると全画面で表示される(写真=右)。操作はタイトルバーをスライドして移動させ、右上のアイコンをタップして閉じるという作法になっている。基本的にWindowsやMac OSとほぼ共通なので、俳優陣のほとんどはすぐに操作を覚えたそうだMR.BRAINのIT関連の設定は、ホログラム以外はすでに市販されている技術で実現できるというのも、実は隠れた特徴であったりする。IPSで全員が参加するミーティングで使われる大画面スクリーンも、裏側に薬剤を塗ったパネルを天井から吊るしてプロジェクタを照射するタイプで、すでにイベントホールで使われている。「見た目にはすりガラスのようなパネルが、カメラで撮影すると、薬剤が映らないため画面だけが宙に浮いているようになった」(谷川氏)
九十九龍介がメインマシンで使っているテーブルPCも、タッチパネルを組み込んだ大画面ディスプレイというスタイルで、これも既存の技術で実現できる。ただ、このサイズでタッチパネルを組み込んだディスプレイは大変高価なものになってしまう。そこで、テーブルPCでは「光学式のタッチセンサー」を導入している。
光学式のタッチセンサーとは、ディスプレイの左右上端にCCDカメラを内蔵するとともに、ディスプレイの回りに薄い乱反射テープを巡らせたもので、ディスプレイに置かれた物体を乱反射した光とカメラで検知することでディスプレイにおける座標を算出している。この方式ならコストはディスプレイのサイズに関係ないため、今回使ったテーブルPCのような40型を超えるサイズのディスプレイでもノートPCに搭載されているような17型でも、価格はあまり変わらないという。
「現時点で実用化されている技術で可能になる設定」で、もう1つ典型的なのが、テーブルPCのディスプレイに携帯電話を奥と、そこに保存されているデータにアクセスしてPC側に画像などを表示したシーンだ。これも、Bluetoothなどの無線技術をサポートする携帯電話を使って、タッチパネルを組み込んだディスプレイに置いたアクションをトリガーにすれば十分実現できるという。
地味ながらもクオリティを大きく改善したMR.BRAINの挑戦
演技者に直接操作させることで、視線や顔の表情がよりリアルに、そして、画面表示にシンクロした演技が可能になる(もしくは、容易になる)のは先ほども紹介したとおりだが、谷川氏によると、それ以外にも、いろいろと「副産物」があったそうだ。その典型的な例として紹介されたのが、PCを使った「アドリブ」が可能になったことだ。
ドラマの1シーンで、ある演技者が、テーブルPCを“ただのテーブル”と勘違いして、「ディスプレイに両手を付く」という想定外の動きをしたことがあった。テーブルPCのタッチセンサーはマルチタッチに対応していたものの、Flashで作成したインタフェースがシングルタッチのみに対応していたため、このままでは演技で必要な画面操作ができなくなってしまう。本来ならNGとなるところだが、「対面に座っている演技者がディスプレイに付いている両手を持ち上げる」というアドリブで演技を取り続けた。こういうアドリブが生まれるのも、その場で実際に操作を行いながら演技できたおかげだという。
収録前に急きょ操作可能なインタフェースを作成しなければならなかったことや、セットにあるシンクライアントに一斉配信するシステムを組む必要もあったりと想定外の作業は随時発生しただけでなく、作業にかかる時間や労力の見当がつかず、タイトなスケジュールで進むドラマ制作に間に合わせるのは大変な苦労があったと、Flash製作やシステム構築の実作業も担当した谷川氏は振り返る。しかし、今回の挑戦で演技のリアリズムが向上したとともに、次に同じことをしようとしたときには、必要な時間の見通しなどのノウハウが得られたので、もう少し余裕をもって作業が進められるだろうとも述べている。
「次回作は?」の問いに、当然ながら回答はなかったが、MR.BRAINで導入された試みは、PCやデジタルがジェットが当たり前となった時代のドラマで、必須となっていくだろう。
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