2012年のタブレットを冷静に振り返る:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
iPad mini、Nexus 7、Surface、Kindle Fire HD……。刺激的な製品が多数投入された2012年のタブレット市場だが、業界全体のメガトレンドとしてはゆったりしたものだった。
Windows 8タブレットにも期待大
1年の振り返りではなく、将来予測の話になってしまったが、こうした背景あってこその、2012年のタブレット市場だった……と言えるのではないだろうか。
前述したように、iPadファミリーがハードウェアだけでなく、アプリやコンテンツ、周辺機器などのエコシステム構築で前を進んでいるものの、“イノベーション”と呼べるような変化はここしばらく起こしていない。大きなイノベーションで新しい波に乗った後、その波を外さずにバランスよく、足固めをしている段階だ。
対するGoogleは、まだ完成度が高いとは言えないものの、タブレットに対する理解を2011年に進め、それを受けた2012年にアイデアを徐々にサービス、端末の両面に実装し、ユーザーからの反応を見る段階に入っていたように思う。
Googleは、本来は開発者向けの標準機である「Nexus」シリーズを、タブレットに関しては積極的にコンシューマーにも訴求した。各OEM先メーカーのビジネスと競合する面もあるが、スマートフォンの拡大版ではなく、タブレットなりのよさを引き出すための準備と言えるかもしれない。
Googleがタブレット向けの基本ソフトとして、スマートフォンとは別の魅力をAndroidに組み込み、関連サービスの洗練度を上げることができたならば、どのメーカーといわず、あらゆるAndroidタブレットメーカーの販売台数が伸びるはずだ。
一方、Windowsタブレットに関しては、IntelのAtom Z2760(開発コード名:Clover Trail)を搭載したWindows 8タブレットが、採用した各メーカーとも優秀な製品に仕上がっているにもかかわらず、あまり盛り上がっていないことが気がかりだ。とはいえ、PCとしてもタブレットとしても使える、これらの製品評価は徐々に上がっていくと思う。
Windows 8タブレットの問題は、一にも二にもWindowsストアアプリの充実度にある。全画面ユーザーインタフェースでタッチパネルに最適化されたアプリは、Windowsストアを通じて配布される。MicrosoftはWindowsストアでアプリを販売する際の手数料を低く(20%)設定したり、アプリ内課金についての規制を設けないなど、参入しやすい環境を整えてアプリ開発者に訴求しているが、独自のアプリ流通システムとして確立されるまでには、まだしばらくの時間が必要だと考えられる。
Windows PCにおける10億台のインストールベースが、年間3億5000万台の買い換えサイクルに支えられ、タブレット対応への新陳代謝が進む日も遠くないと思うが、その効果が明確になるのは2014年になるのではないだろうか。とはいえ、あくまで個人的にはWindows 8タブレットへの期待が大きい。Intelプロセッサ+Windowsの組み合わせで、iPadを超えるほどの軽快さと同等のバッテリー性能を誰が予想しただろう。
日本人に合ったタブレットはどのサイズか
ところで、タブレット市場が盛り上がっている……という前提で話を進めてきたが、実は日本のタブレット市場はまだ年間450万台規模とMM総研のリポートでは報告されている。全出荷台数に対する日本市場のシェアは4%にも満たない。その理由について、有力な説はまだ思いついていない(他からも聞こえては来ない)が、個人的には“日本人の生活スタイルに合ったタブレット”が、まだ存在していないからかもしれない、と思い始めている。
タブレットの画面サイズは、利用スタイルをストレートに反映する。10型クラスと7型クラスでは、利用する場面や求めているアプリが微妙に異なる。日本人にとっては、小さくカバンへの収まりもよい、軽量な7型のほうがフィットしているのではないだろうか。
さらに突き詰めると、実は日本人向けのタブレットは、5〜6型クラスのタブレット……すなわち、少し大きめのスマートフォンではないか? という仮説も、さほど乱暴な設定とは思えない。世界市場が年間1億7000〜2億台と見込まれている中で、日本でのタブレット販売が2012年の2倍以上に伸びると仮定しても1000万台の規模だ。
7型クラスのミニタブレット市場がどう成長するかが、“日本にぴったりのタブレット”を探る試金石になるだろう。現状はまだ結果が出ているとは言いにくいが、「iPad mini」や「Nexus 7」の人気を考えれば、ここで一気に日本市場も花開き、市場調査会社の予想を超えた成長を遂げるかもしれない。
流通とタブレットを結びつけるKindle
そうした2013年の話をテーマにしたコラムは、年明け早々に掲載することにしたいが、最後に編集部のリクエストもあって、Amazonの「Kindle Fire」や「Kindle Fire HD」についても触れておきたい。
Kidle Fireシリーズは、Kindleという名称から電子書籍を中心としたコンテンツプレーヤー端末として、低価格なことも合わせて人気を呼んでいる。AndroidをベースにしながらGoogle Playに依存せず、独自に各種アプリを搭載。電子書籍だけでなく、音楽、映像、ゲームなどのコンテンツを楽しむことができ、もちろん基本的なインターネット端末の機能を持つのだから、お手軽端末として人気が出るのも無理はない。
ただし、Kindleシリーズは電子書籍端末も含め、基本的に流通企業であるAmazonが、顧客に自分たちの販売する商品を届けるシステムの一部として作られており、基本的なコンセプトは汎用情報端末ではないことは、よくよく考えておいたほうがいいと思う。
CDやDVD、Blu-ray Disc、書籍などを販売してきたAmazonが、コンテンツのデジタル化に伴い、コンテンツ流通最大手企業として何をやるべきかを考えたうえでの端末ということだ。システムのアップデートに関しても、例えば一般的なAndroidタブレットならば、Googleのクラウドアプリ群にフィットするようアップデートがなされ、iOSのアップデートとともにiTunes Storeも変化していく。これに対して、アマゾンのサービスと寄り添っているのがKindleシリーズということだ。
このように流通とタブレットを結びつけ、安価なタブレット端末として販売する手法は、今後増えていくのかもしれない。
関連キーワード
Windows | iPad | Windows 8 | Android | Kindle | Google | Windowsタブレット | Nexus 7 | Kindle Fire | Amazon | Androidタブレット | Apple | Kindle Fire HD | Microsoft | Surface | ARROWS Tab Wi-Fi | Clover Trail | 本田雅一のクロスオーバーデジタル | 本田雅一
関連記事
- 本田雅一のクロスオーバーデジタル:2011年のタブレット端末を冷静に振り返る
さまざまなタブレット端末が登場した2011年。相変わらずの強さを見せたiPad 2、国内勢も本腰を入れ始めたAndroidタブレット、そしてHPのwebOS端末撤退と、ニュースは多かったが、期待通りに盛り上がったかと問われると疑問符が付く。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:Windows 8総責任者の辞任が「Windows Blue」にもたらすもの
Windows 8開発責任者のスティーブン・シノフスキー氏は米Microsoftを退社し、ハーバードビジネススクールの教壇に立つ。同氏の辞任は次期OS「Windows Blue」にどのような影響をもたらすのだろうか。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:「WiMAX 2+」で見えてきた次世代WiMAXのロードマップ
UQコミュニケーションズが、TD-LTEとの互換性を持つ次世代の高速通信規格「WiMAX 2+」(仮称)を発表した。WiMAX 2+の導入により、WiMAXはどう変わるのか。通信速度はどこまで上がるのか。そして現在のWiMAXはどうなるのか。その展望と課題を整理した。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:次世代CPU「Haswell」は今度こそ“パソコンの形”を変えるか
2013年に投入されるインテルの次世代CPU「Haswell」は、パーソナルコンピュータを設計する自由度の向上が期待できる。これにより、PCの形はどのように変わるのだろうか。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:IFA 2012で感じた、スマートフォンにまつわる2つの“意外”
9月5日までドイツで開催されていた「IFA 2012」を取材して、意外に感じたことが2つある。1つはSamsung電子のスマートデバイスのラインアップが地味だったことと、Windows Phone 8への注目度が各所で上がっていたことだ。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:Windows 8で本当に注目すべき2つのキーワード
Windows 8の発売に向けて、タブレットデバイスの動向も気になるが、それ以上にWindows Phone 8やクラウドサービスとの連携は重要だろう。特にSkyDriveとHTML5の2つのキーワードに注目したい。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:「Windows 8は従来型のPCでも使いやすい」と確信するマイクロソフト
Windows 8がタッチパネルに最適化されているのはよく分かったが、今使っているノートPCやデスクトップPCでも便利に使えるのか? Windows 8の企画・開発に携わるプログラムマネージャーに疑問をぶつけてみた。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:LaVie Zが「800グラム台」を実現できた本当の理由
875グラム──13型クラスで未知の領域に到達したNECのスペシャルUltrabook「LaVie Z」。なぜここまで軽いのか、どんな手法を用いたのか、そもそもなぜNECがここまでとがったUltrabookを。NECパーソナルコンピュータのLaVie Z企画担当者に話を聞いた。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:ケータイのエコシステムをスマホ上に再現する「LINE」
7月3日にNHN Japanが開催したLINEカンファレンス「Hello, Friends in Tokyo 2012」で、コミュニケーションアプリ「LINE」がプラットフォームへと進化するロードマップが示された。そのモデルは、ドコモの「iモード」が生み出した“ケータイビジネスモデル”によく似ている。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:“Retina”はMacだけでなく、Windowsでも普及するか
「MacBook Pro Retinaディスプレイモデル」が発売され、ついにPCの世界でも超高解像度ディスプレイの普及が始まった。今回はRetinaディスプレイでMac OS XとWindows 8 Release Previewの見え方を確認したうえで、今後の高dpi表示環境を考える。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:iOSとMac OS Xの進化は行き詰まるのか、それとも
WWDC 2012でアップルの製品開発面における強さを再確認すると同時に、iOS、Mac OS Xといった“基礎部分”の進化に関しては、どこか迷いのようなものを感じた。それはなぜなのか。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:Ivy BridgeでWindowsとMacのノートはどう変わるか?
TDP 17ワットの第3世代Coreが発表されるとともに、各社からUltrabookの新モデルが続々と登場している。MacBook Proの刷新が期待されるWWDCも来週に迫ってきた。この新CPUでWindowsとMacのノートはどのように進化していくのだろうか。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:Windows 8は創造性を犠牲にしないか?――開発責任者インタビューを終えて
タッチ操作を重視したWindows 8のユーザーインタフェース設計は正しい進化なのか。Windows開発責任者のインタビューで納得した部分もあったが、疑問は残る。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:解像度の呪縛から逃れようとするWindows 8
アップルが推し進めるiOSとRetinaディスプレイを組み合わせた高画素密度体験。これにマイクロソフトはどう対抗していくのか? Windows 8の解像度を考える。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:“トラフィック爆発”への対処を進める通信キャリアのネットワークの今
2011年から2012年にかけて、携帯電話キャリア各社で不具合が相次いだことからも分かるとおり、スマートフォンの急速な普及にともなうデータトラフィックの増加にどう対応していくかは喫緊の課題だ。各社の現状と今進めている対応を整理してみた。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:MVNOによるLTEサービス、選び方のポイント
携帯電話事業者各社が高速なデータ通信サービスを提供する中、IIJや日本通信がMVNOによる“小回りのきいた”サービスも始まっている。今回はよりお得に利用できる可能性がある、MVNOのLTEサービスを整理してみたい。 - 本田雅一のクロスオーバーデジタル:“新しいiPad”が追求したスペック以上の魅力
第3世代となる“新しいiPad”は、想像される範囲内のハードウェア変更にとどまったと言える。しかし、スペックだけを見ても、新iPadの本当の実力は見えてこない。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.