あの感動、再び――Appleは新たな時代に踏み出した:神尾寿のMobile+Views(1/4 ページ)
6月10日(現地時間)に開催された「WWDC2013」では、OS XとiOSの新バージョンが発表されたほか、「MacBook Air」と「Mac Pro」のモデルチェンジが行われた。WWDC 2013で示された未来とは――。キーノートから読み解いていきたい。
ふたつのOSを同時に進化させる。
Appleはここ数年、毎年6月に開催する「Apple World Wide Developpers Conference」(WWDC)において、それを常としてきた。世界中から集まった開発者とメディア関係者に対して、Mac向けのOS XとiPhone/iPad向けのiOSの次のステップを足並みをそろえて見せることで、Appleの思い描く未来を見せてきたのだ。
そして、2013年6月10日(現地時間)。Apple World Wide Developpers Conference 2013が始まった。例年どおり、今回のWWDCでもOS XとiOSの新バージョンが発表され、それに加えて「MacBook Air」と「Mac Pro」のモデルチェンジが行われた。蓋を開けてみれば、その構成はここ数年のWWDCと同じであったが、内容そのものは近年まれに見る濃密で重要なものだった。Appleがいまだイノベーションの牽引者であることを強く印象づけるものだったのだ。
WWDC 2013で示された未来とは、どのようなものか。キーノートの模様をリポートしながら、今回、発表された内容の意味について考えていく。
エコシステム優位性、変わりなく
世界中のIT業界関係者にとって、WWDCの存在感と重要性が増してきている。毎年、キーノートの会場に入るたびに感じるのだが、今年の熱気と盛り上がりはさらにすごかった。
約6000人以上。
毎年WWDCが開催されるモスコーン・センターの大ホールは昨年よりも拡張されて席数が増えていたのだが、それでも世界中から集まった開発者やメディア関係者でごった返す「満員御礼」状態だった。前方席を確保するために前日から行列ができるほどなのだ。
まるでロックフェスティバルのような熱気の中で、CEO(最高経営責任者)のティム・クック氏が登壇するのもまた恒例だ。クック氏はまず、今回のWWDCのチケットがわずか71秒で売り切れるほど人気だったことをアピールした後、Appleを取りまくビジネス環境の最新状況について報告した。
それによると、App Storeからダウンロードされたアプリの総数が500億件を超えており、iOSアプリの登録数は90万に達しているという。そのうちiPad最適化アプリは37万5000本だ。また、App Storeの登録アカウント数は5億7500万件を超えているという。そしてクック氏が、会場に対して「開発者の皆さんの累計収入は100億ドル(約9886億円)を突破した」と話すと、会場から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
周知のとおり、AppleのApp Storeはグローバルな有料アプリ市場の草分けであり、スマートフォン/タブレット市場において、“きちんとお金がまわるエコシステム(経済的な生態系)”を構築してきた。昨今ではAndroid向けの公式ストア「Google Play」も日本を筆頭に売り上げを伸ばしている。しかし、昨年12月にオランダの調査会社Distimo社が公表した調査結果(外部リンク)によると、主要20カ国の1日あたりの平均売上高はApp Storeが1500万ドルだったのに対し、Google Playは350万ドルに留まっているという。WWDC 2013で発表された数字とあわせて見ても、エコシステムの規模と質の両面において、AppleのApp Storeが“健全な市場形成”という点でいまだ優位性を保っていることが分かる。これはiPhone/iPadに良質で魅力的なアプリが多数集まる要因になっている。
OS Xは名前を変えて、“次の10年へ”
大まかな事業現況の説明の後、取りあげられたのがMac向けの「OS X」についてだ。
クック氏はまず、Mac向けのOS Xの市場規模が7200万台となり、「ここ5年の成長率において、Windows PCを大きく上回っている。顧客満足度もナンバー1だ」とその好調ぶりを紹介。さらに昨年投入されたOS X Mountain Lionのインストールベースは2800万本を突破。最新OSリリース後、6カ月の浸透率において、OS X Mountain LionはMicrosoftの最新OSである「Windows 8」を大きく上回っているとアピールした。
その後、Apple ソフトウェアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのクレイグ・フェデリギ氏が登壇。これまで猫科の名前が付けられてきたOS Xの名前の候補が少なくなってきたため、「今回はOS X Sea Lion (アシカ)という名前も考えた」というジョークで会場を笑わせたあと、あらためて、次の10年を見越して新OS Xのネーミングルールを変更すると発表。新たなOS Xとなる「Mavericks」を披露した。
このOS X Mavericksでは、次世代に向けたUIデザインの刷新と、OSの内部的な技術革新がドラスティックな形で行われた。
まずUIデザイン刷新では、基本のデスクトップUIを構成する「Finder Tabs」と、新たな情報管理手法として「Tags」という新機能が用意された。前者はこれまでMacで使われていたFinderの進化版であり、UIにWebブラウザのようなタブ構造を導入。ウィンドウを複数開かなくても、複数のフォルダや機能を1つのウィンドウ内でコンパクトに扱えるようにした。一方、後者のTagsはファイルやコンテンツに、分類用の「タグ」を付けられるようにするもの。これにより、目的とする情報を、ファイルやコンテンツの所在に関係なく、タグ別に分類・抽出して扱えるようになる。
すでに勘のいい読者なら気づいたと思うが、Finder TabsとTagsが目指しているのは、古くからのPCのUIデザインである“階層的なフォルダ構造”と“マルチウィンドウ”からの脱却だ。この方向性は、OS XにiOSからのフィードバックを受けて、フルスクリーンアプリケーション機能などが搭載されたときから打ち出されていたが、それが今回さらに進むことになる。
他方で、OS X Mountain Lionで不評だったマルチディスプレイ環境は、期待以上に洗練された形で改善が行われた。OS X Mavericksでは、マルチディスプレイ環境でもフルスクリーンアプリが動くようになったほか、ディスプレイごとにメニューバーやドックが適宜表示されるようになった。ディスプレイ間の連携もスムーズであり、アニメーション表示の美しさはAppleのこだわりを感じるものだ。さらにこのマルチディスプレイ機能は、Macに接続されたディスプレイだけでなく、Apple TVで接続されたテレビでも有効である。
一方、OSの内部的な処理についても大きな技術革新が行われた。CPUの動作最適化を行う「Timer Coalescing」、メモリの利用最適化を行う「Compressed Memory」など最適化技術を新たに搭載し、性能の向上と消費電力の低減を実現。とりわけ、インテルのCPU Haswellをはじめとする最新のハードウェアの性能を引き出せるように、OS X側できちんと対応したのは注目すべきポイントだろう。
また、Webブラウザの「Safari」でも内部処理の最適化が行われて、WebページのレンダリングやJava Scriptなどの実行速度が大幅に向上。それでいてメモリや電力の消費量は、ChromeやFire Foxよりも低く抑えられているという。ここでもAppleが得意とする最適化の力が発揮された形だ。
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