「世界の電話トラフィックは移民が支えている」――KDDIが移民ビジネスに見るチャンス
KDDIが米国の移民ビジネスに参入する。「人種のるつぼ」と言われる米国では、どの程度の移民マーケットが存在するのか。また、米国のMVNO2社にKDDIが出資をすることで、どんな効果が期待できるのか。KDDIの石川雄三氏が説明した。
移民ビジネス――日本の携帯業界ではあまり聞き慣れない事業だが、“移民大国”と言われる米国では、大規模な携帯市場の1つとして、さまざまな事業者がサービスを提供している。そんな米国の移民マーケットにKDDIが参入する。KDDIの100%子会社であるKDDI Americaが、米国のMVNO(仮想移動体サービス事業者)であるLocus Telecommunications(Locus)とTotal Call International(Total Call)に出資をすることで合意。KDDIはグローバル事業のさらなる拡大を狙う。
KDDIは海外での新規事業を興すにあたり、未開拓の市場で、高い経済成長の可能性を秘めている開発途上国に着目。2009年11月には、バングラディッシュ最大のISPであるbrancNetへ出資し、同国で通信インフラを構築することを発表。今回の移民ビジネスは、brancNet出資に続く新たな取り組みで、先進国に住む移民に向けた通信や付加サービスへの提供を目指す。
2000年〜2005年には北米に約690万人、欧州に540万人が、アジアやアフリカ、中南米から移住している。世界最大の移民大国として知られる米国では、2000年〜2008年にかけて800万人が移住し、総人口の10%以上が移民で構成されている。こうした背景から、米国では国際電話の発信量も世界で最も多く、米国発の国際音声トラフィック量は、2000年の231億分から2008年には547億分に増加している。
割高な国際電話よりは、インターネット回線を利用して無料で通話ができる「Skype」などを使う方がはるかに得だが、「Skypeは先進国のサービスだ」とKDDI 執行役員 ソリューション事業本部長の石川雄三氏は話す。「Skypeを使うには、電話をかける側と受ける側の双方にPCが必要。米国に移住してからPCを買う人もいるだろうが、祖国の家族はPCを持っていない人が多い。世界の電話トラフィックは移民が支えている」
こうした移民ビジネスの入り口としてKDDIが検討しているのが「プリペイド携帯市場」だ。中南米やアフリカ、アジアからの移民は所得が低いほか、英語を話せない移民もいる。彼らは米国の企業から顧客ターゲットと見なされず、社会的なサービスを受けられないことが多い。さらに、銀行口座を持たない移民も多く、メキシコ移民1150万人のうち53%が銀行口座を持たないという調査結果もある。したがって、移民が使うケータイは必然的にプリペイド端末が多くなる。「移民がプリペイド携帯の成長を支えているので、我々はそこにビジネスチャンスを見ている」(石川氏)
現在、KDDI Americaは米国の通信事業者と世界各国(8割)の通信事業者を結ぶ国際音声サービス(中継事業)を、日本人渡航者向けに提供している。この国際音声サービスのトラフィックの量は、日本から海外への発信と比べて10倍に及ぶという。こうした同社のトラフィック中継事業も、今回の移民ビジネスで生かされる。
さらに、KDDI Americaが出資をするTotal CallとLocusの持つ販売チャネルやブランド力、サービスと端末の開発力を取り込むことで、米国での移民ビジネスを軌道に乗せる。3社のシナジー効果により、米国内のアクセスチャージ(通信事業者間の接続料)や端末価格を下げられるメリットがあるほか、各移民の母国語の端末やコンテンツ、付加価値サービスなども容易に提供可能になる。「2013年までに100万契約を取り、全米でトップ10入りを目指したい」と石川氏は意欲を見せる。一方、端末の開発メーカーやコンテンツの内容などは「これから検討する」とのこと。現在は、KDDI Americaの日本人渡航者向けサービス「KDDI Mobile」で提供中の端末やコンテンツが利用できる(端末についてはKDDI MobileのWebサイトを参照)。
将来的には、プリペイド携帯を利用して祖国へ送金できる「モバイル送金」サービスの提供も視野に入れている。石川氏によると、国際送金の市場は拡大しており、全世界で毎年1.5億人の移民が総額30兆円を家族へ送金しているという。ただ、移民の多くが銀行口座を持っていないので、送金をするのに手間がかかる。モバイル送金ではこうした手間を軽減するのが狙い。「ケータイからSMSを送信することで、プリペイド端末にためた金額を送るといったシステムを検討している」(石川氏)
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