3Gの普及やTD-LTEの開発で世界市場をけん引する――Ericssonが語る中国の展望:Ericsson Business Innovation Forum 2010
3Gサービスの開始や独自技術の開発など、世界中から注目を集めている中国。Ericssonはこの巨大市場へどのように挑んでいくのだろうか。Ericssonのプレス向けイベントで、その戦略や中国市場の今の姿が紹介された。
Ericssonが5月17日から19日の3日間、中国・上海で開催中の上海万博会場内スウェーデンブースのイベントホールで、プレス向けのイベント「Ericsson Business Innovation Forum 2010」を開催。世界各国から集まった100人を超えるプレス関係者を対象に、Ericssonや中国業界関係者によるセッションを実施した。
端末価格の下落が中国の3G普及を後押し
Ericsson Business Innovation Forumは2010で2回目の開催となる。2009年はEricsson本社のあるスウェーデンで開催されたが、今年の開催地は中国に移された。中国は携帯電話加入者数が約8億人、インターネット利用者が約3億8000万人の大きな市場。世界各国の先進国と類似した先進的な利用者が多い都市部と、低所得者が多数ながらも爆発的な利用者数の増加が見込める新興国と類似した地方/農村部が同一国内にある「世界の縮図」ともいえる市場構造を持っている。
オープニングセッションでも同社ストラテジ担当上級副社長のダグラス・ギルストラップ氏は「ここ10年、経済成長が続き人口13億人を抱える中国市場はEricssonにとってもアメリカに次ぎ世界第2の市場になっている」と中国市場の重要性を語った。
18日と19日に行われたセッションでも、テーマのメインとなったのは中国市場の状況。中国の経済アナリストや通信事業者のトップが登壇し、中国の現状と将来の展望などを紹介した。その中で各登壇者が力説していたのが「中国はまだまだ発展途上にある国である」という点だ。都市部の成長は落ち着いたものの、ここ数年は農村部における経済成長が著しく、中国はこれからも発展が見込める有望な市場といえる。
調査会社Infomaのアジア太平洋地区主席アナリスト、チャールズ・ムーン氏は「中国の携帯電話加入者数は今年末で8億人を超え、これが2012年には10億人を突破する見込みだが、その多くは農村などの地方都市における加入数の増加によるものだろう」と分析。特に3Gの普及が加速しており、中国のみならず世界の市場でも先進国や都市部だけではなく、発展途上国や地方にも3Gが急速に広がっていくだろうと語った。
それを後押しするのが3G端末価格の下落で、3〜4年前は大手メーカーの低価格3G端末の価格は欧州で300ユーロ前後だったものが、2009年は80ユーロ程度、2010年は50〜60ユーロにまで下がっているという。特にODMやOEMの3G端末は40ユーロ=50ドル前後と、端末の低価格化は2G端末だけではなく3G端末にまで及んでいる。端末メーカーも先進国マーケットだけを対象とした製品だけではなく、エントリーモデルも3G端末のラインアップに加えるようになっているとのことだ。
China Unicomは3つの3G戦略を導入
3Gをさらに普及させるため、中国の通信事業者は、どのような戦略を打ち出しているのだろうか。
中国最大のChina Mobile(中国移動)の研究機関統括責任者ビル・ホワン氏によると、現在の同社の加入者数は2Gと3Gを合わせて5億4000万人に達しているのこと。同社は現在、中国全土に3万の基地局を設置している。
3Gサービスは中国独自規格のTD-SCDMAを採用しており、2009年からは全国に基地局の設置を拡大している。このTD-SCDMAはW-CDMAやCDMA2000と比較して技術や商用化の点で遅れている部分があるものの、「その差は数年以内に急速に縮まっていくだろう」とホワン氏は見ている。次世代のTD-LTEは2011年の商用化を目標に開発を進めており、「Ericssonなどとも協業し、業界のスタンダード技術として普及拡大を図りたい」と展望を述べた。
また、2009年からW-CDMA方式で3Gサービスを展開しているChina Unicom(中国聯通)の、3Gネットワークコンストラクション部門長兼統括責任者、ツ・リチュン氏は、同社の3Gサービス開始時に3つのイノベーション(戦略)を導入したことを説明した。
1つ目がブランドイノベーション。「Wo」という新しいブランドを提供し、その下にケータイや固定など3つのサブブランドを設置することで、斬新さや期待感をユーザーに提供することができたという。2つ目のイノベーションは製品イノベーション。音楽やビデオ配信、モバイルブロードバンドやメール、インスタントメッセージなど、2G時代よりも進んだサービスを3G開始と同時に提供している。
そして3つ目が料金のイノベーション。これまでの従量制課金を改善し、細かい複数のプランを用意、利用上限を超えると上のプランに自動的にスライドできる使いやすいものにした。China UnicomはEricssonなどからネットワーク設備を導入し、2010年中には中国全国285都市に3Gエリアを拡大する予定だ。
都市部と地方で異なるケータイのトレンド
巨大市場、中国での携帯電話やインターネットのトレンドは、どこに向かっているのだろうか。Ericssonコンシューマーラボのキャタヤ・スー氏とパー・カルソン氏は「都市部と農村など地方部では異なったトレンドが見られる」と、同社の調査結果を踏まえて説明した。
まず都市部では、海外の音楽がインターネット動画共有サイトで人気ナンバーワンになるなど、流行の国際化が進んでいるという。そのため携帯電話はインターネットと接続し、最新の情報を共有するためのツールになりつつある。また、最近では携帯電話だけでネットを使う利用者も増えており、各通信事業者も意欲的なサービスパッケージを出している。例えば、中国で誰もが利用しているインターネットチャットサービス「QQ」は、毎月わずか5元で携帯電話から利用できる。モバイルブロードバンドサービスは、都市部のインターネットユーザーの半数に迫る勢いで利用者が伸びており、人々の「常にネットにつながっていたい」という意識も高いものになっている。
一方、地方ではテクノロジーの進化が生活を豊かなものにすると考えている層が多く、新しい製品や技術の取り入れにも意欲的な姿勢が見えている。携帯電話やインターネットを活用することで、より高い収入を得るための機会増加や子どもの教育レベルの向上、さらに周りの人々とのコミュニケーションをより豊かなものにできると期待されている。また、収入が上がることで、自分をアピールするために最新のICT製品を買う動きも広がっているようだ。
またスー氏は「地方のケータイ利用者は、読み終わったSMSの消去やアドレス帳の新規アドレスの追加方法が分からなくても、単機能を活用しているユーザーが多い。簡単で誰もがすぐに利用できる明確なコンセプトを持った製品やサービスが好まれている」と説明。都市部とは違い、農村などの地方では「簡単」「安い」「実用性」――この3つのキーワードが重要なポイントとなるとした。
この10年、中国のICT市場は大きな成長を遂げた。インターネットや携帯電話のユーザー数も急増に加え、3Gも日常的なサービスとなりつつある。政府も向こう3年間に3G関連へ4000億元、FTTx関連に1500億元を投資する予定だ。
Ericssonの中国・北東アジア担当取締役社長のマッツ・オルソン氏は、中国の通信事業者は、すでにアプリケーションストアなど世界のトレンドをいち早く取り入れており、中国開発のTD-SCDMA/TD-LTEなどの技術開発も積極的に行うなど、世界のマーケットをけん引する存在になったと評価。「Ericssonはこのダイナミックな中国市場でのビジネスを引き続き拡大していく」と意気込みを話した。
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