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2013年は、MNP好調の先を見据える――KDDI 田中孝司社長に聞く新春インタビュー(2/3 ページ)

ゲームチェンジによる「auモメンタムの回復」を実現し、2012年に最も勢いを付けたのがKDDIだった。同社はこの好調をどう見ており、2013年にどうつなげていくのか。新春インタビュー第2弾は、KDDIの田中孝司社長に、2013年の展望を聞いた。

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KDDIがもっとも重視するのは「MNP」ではない

―― 目先の競争で見ますと、最近のKDDIはファミリー層をごっそり他社から獲得している印象があります。いわゆる世帯契約の獲得において、現状の手応えはいかがでしょうか。

田中氏 ごっそり持っていくというほどではないですが(苦笑)、我々は「世帯浸透率」という指標を持っています。これは1家族の中に何人のauユーザーがいるか、というものです。この世帯浸透率が2012年上期末は1.7でした。これが徐々に上がってきていて、今年度末までに2.0まで上げたいと思っています。

―― 現在のKDDIは多様な訴求ポイントがありますが、世帯契約の獲得において特に効果を上げているものは何でしょうか。

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田中氏 スマートバリューですね。これが効いています。スマートバリューはマーケティング的な要素も入れてありまして、家族の中で口コミで(KDDIが)広がるようになっています。例えば家族の誰かがiPhoneが欲しいといったら、「固定系をKDDIに変えて、他の家族もauにすればこれだけ安くなるよ」と話題にできるように作ってあるのです。しかも、こうやって家族でau加入を検討した時に、(iPhoneもあればAndroidの主要メーカーの最新機種もあるので)今までと変わらないよ、と言えるようにしたのです。

 このスマートバリューで仕掛けた仕組みが、とてもよく機能しています。家庭内で(固定網とauのスマートフォンによる)ベースラインが確保できれば、あとはauへの移行という連鎖が起きてきます。スマートバリューは、狙いどおりの結果が得られています。

―― スマートバリューの好調やiPhone 5のヒットによる追い風もあり、KDDIはMNPで破竹の勢いです。この好調さは2013年も続くのでしょうか。

田中氏 (MNPに関しては)ちょっとできすぎな感があるのですよね。なぜ、できすぎかというと、実は2012年後半のMNPでの獲得実績は、MNP開始直後のピーク値に匹敵するほどになっているのです。しかし、これはかなり“うまくいきすぎている”状況ですから、今後は多少の(数字の)上下はあると見ています。

―― しかし現状で見ますと、KDDIはドコモのシェアをMNPで刈り取っていますよね。ここではiPhone 5の影響もかなりあると思いますが、そう考えると、ドコモがiPhone 5を投入するまでは、ドコモをターゲットにすることでMNPでの一定の優位性が得られるのではないでしょうか。

田中氏 そうですね。ソフトバンクからも流入していますが、確かに(MNPで)ドコモからお客様が流れてきています。ただ、だからドコモをMNPのターゲットにするかというと、僕はね、そういうことをやってはいけないと思っているのですよ。どこかをターゲットにするのではなく、お客様が望むことをやらなければならないのです。

 今後、販売を極大化するためにキャッシュバックを積み増していくというようなことも、局面によっては必要になるかもしれないけれども、あまり積極的にやってはいけないと思います。そうではなく、KDDIがお客様に「いいよね」と言っていただけるような要素をきちんと積み上げていかなければなりません。お客様のニーズや期待にきちんと応えられているのかという部分では、僕はまだ不満足なんです。

―― iPhone 5がこれほど好調でも、不満ですか。

田中氏 僕はね、iPhone 5の爆発的な伸びというのは、それほど長く続かないと思っているんですよ。それに、もしドコモからiPhoneが発売されるようになったら優位性ではなくなってしまいますしね。

 MNPに関していえば、相手を見て何かをするのではなく、KDDIとしての軸足をしっかり持って、お客様と向き合っていかないといけないと思うのです。(目先の数字に踊らされて)我々の軸がブレてしまうと、わけがわからない状況になってしまいますから。

―― なるほど。あと、これは今年後半に顕著に感じたのですが、これだけMNPの利用が活性化しますと、MNPで獲得したユーザーが2年後に再びMNPで流出するというリスクが出て来ますね。いわば「キャリア渡り鳥」みたいなユーザーが増えてしまうと思うのです。現在、KDDIはMNPによって多くのユーザーを獲得しているわけですが、2年後を見据えた流出阻止の戦略はどのようになっているのでしょうか。

田中氏 ああ、それはすごく重要(な課題)ですね。実はMNPの獲得の部分ばかりメディアで出過ぎているのですけれど、KPI(Key Performance Indicators/重要業績評価指標)の優先順位ではMNPは1番ではないのです。

―― 2012年の新春インタビューでおっしゃっていた「auモメンタムにおけるKPI順位」ですね。

田中氏 ええ。あの時にもお話ししましたが、我々にとっていちばん重要なKPIは「解約率」なんです。2つ目が「MNP」、3つ目が「純増数」という順番でした。ですから、いま社内でもっとも評価が高いのは、「解約率がもっとも低い」ということなんです。解約率は0.5%台で、業界最低の数値になっています。地方に行けば、0.4%台も出始めています。

―― 今まではドコモの解約率が低く、しかも地方ではその傾向が顕著でした。しかし今は、KDDIが解約率の点においてドコモを逆転しているわけですね。

田中氏 マスコミは殴り合いが好きだからMNPばかり注目されてしまうのですけど、僕らの本心は解約率を低くし、お客様に長くauにいていただくために何ができるか、なのです。

 スマートフォンの販売価格などで「MNPで新規契約する人ばかり優遇されている」というお叱りについても真摯に受け止めていまして、そういうのも是正していかねばならない、と思っています。

―― 金銭的な部分はもちろんあるでしょうけれども、それ以外の部分で解約率を低く維持するために今年取り組むことなどはあるのでしょうか。

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田中氏 これは社内用語ですが「解決率」を重視しています。これはコールセンターにお客様からお問い合わせがあった時に、どれだけ解決できるか、という指標です。これまでもコールセンターが丁寧な受け答えができているかとかを重視してきたのですが、実際のお客様満足度で考えれば、困った状況が解決できることがいちばん嬉しいわけです。ですから、問題が解決できることを重視しています。

 お客様満足度という観点では、昔のauはJ.D. パワー アジア・パシフィックの顧客満足度調査でずっと1位だったのですが、ここ数年はドコモに1位を取られていました。しかし、我々の大きな目標は解約率を下げることとし、先ほどの解決率も含めてさまざまな取り組みをしたことで、結果として昨年再び顧客満足度調査で1位を取ることができました。これは社内的に、とても高く評価すべきことだと思っています。

―― お客様対応という点で見ますと、私がKDDIでとても高く評価しているのが、au NAGOYAなのです。特にここのサポート窓口の対応力・問題解決力はすばらしい。Apple Store並みに優れた拠点だと評価しています。あのau NAGOYAの仕組みを全国に広げられないのでしょうか。

田中氏 広げたいのですよ。ずっとそう思っています。全国主要都市にau NAGOYAのような拠点を作っていきたい。全社的な流れとしては、(au NAGOYAと同じ直営店を)増やしていく方向ですよ。

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