最近まで多くの企業では、電気代は事業運営に不可欠な“必要経費”との認識が強かった。しかし今後の電力事情を考えると、電気料金は継続的に値上げされていく可能性がある。電力を安く有効に活用するための基本的な問題をシリーズで解説する。
電力を安く利用するためには当然ながら、電気料金がどのように計算されるかを理解しておく必要がある。東京電力をはじめ全国に10社ある地域電力会社の電気料金の計算方法を見ると、ほぼ共通に作られている。個別のメニューには細かな違いがあるものの、基本的な計算方法は変わらない。契約電力(使える電力の最大値)で決まる「基本料金」と、毎月の使用量によって変動する「電力量料金」の2本立てで課金される仕組みである(図1)。
このほかに金額は小さいが、再生可能エネルギーを促進するための付加金が加わる。一般企業が太陽光発電などによって作り出した再生可能エネルギーを電力会社が買い取ることを法律で義務付けているため、その分の追加コストが上乗せされる。7月からは買取価格が固定されて、電力会社が買い取る量は大幅に増える見込みであることから、この付加金も高くなっていく方向だ。
電気料金の仕組みを理解するうえで、もうひとつ重要なことがある。電力会社と契約する際の電力や供給電圧の大きさによって、料金体系や利用条件に違いがある点だ。大規模な工場やビルで使われる「特別高圧」から、町工場や店舗で使われる「低圧」までの4段階に分かれている(図2)。さらに工場向けの「産業用」と一般向けの「業務用」で料金体系が違う。業務用は平日の昼間に多くの電力を使う企業向けのメニューである。
一般家庭向けは電力の小さい低圧の中でも「電灯」と呼ぶ契約タイプになり、家庭内に設置されたブレーカの「アンペア数」で基本料金が決まる。ブレーカのアンペア数で基本料金が決まるのは「電灯」だけだが、企業向けの場合でも基本料金の算定基準の原則は同じだ。使用する電力の最大値、つまり「ピーク」によって決まる。
家庭向けの「電灯」の場合は契約したアンペア数を超えるとブレーカが落ちるため、ピークは一定に抑えられるが、企業向けの契約ではピークが制限されない。一時的にでも大量の電力を使うと、そのピークが基本料金の算定基準になる。
この点で特に注意が必要なのは、小規模な工場やビルで使われることが多い「高圧小口」の場合だ。契約電力が50kW以上500kW未満で、全国で70万件以上の契約が結ばれており、対象になる企業や事業所は数多くある。
高圧小口の契約では、電力メーターによって30分ごとの電力使用量が記録され、その最大値(ピーク)で基本料金が決まる仕組みになっている。図3は東京電力がウェブサイトに掲載している説明用のグラフである。各月の電力使用量は1か月間の合計値ではなくて、30分単位で計測した数値のピークを表している。1か月のうちのわずか30分間だけ大量の電力を使った場合でも、そのピーク値が基本料金に適用されてしまう。
例えば通常は100kW程度の電力を使っていて、一時的に150kWの電力を使うことがあると、契約電力は150kWに設定される。その後の毎月のピークが100kW程度だったとしても、12か月間は契約電力が150kWに設定されるため、150kW分の基本料金を払い続けなくてはならない。
高圧の基本料金は通常1kWあたり1500円程度に設定されている。契約電力が50kW増えたり減ったりすれば、月額で7万5000円、年間で90万円も違ってくる。東京電力の試算では、中小規模のスーパーや事務所で契約電力が150kWの場合に、年間の電気料金は約876万円になる(月間使用量を3万3000kW時と想定、2012年4月からの料金改定後)。ピークを抑えることで契約電力を100kWに下げることができれば、電気代を10%以上削減できる計算だ。
直近12か月間における30分単位のピークが契約電力になり、基本料金が決まるため、ピークを可能な限り低く抑えることが電気代を安くするうえで有効になる。ピークを抑える手段としては、「デマンドコントローラ」と呼ぶ監視・制御装置を使う方法が現在のところ一般的だ(デマンドコントローラに関しては次回以降の本連載で説明する)。
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