水力発電に再び脚光、工場や農地で「小水力発電」解説/再生可能エネルギーの固定価格買取制度(6)

水力発電と聞くと山間にある大規模なダムを想像しがちで、これまでは環境破壊の代表のように考えられてきた。ところが固定価格買取制度の対象に入ったことをきっかけに、河川や工業・農業用水路などを活用した「小水力発電」が注目を集め、全国各地で小規模な設備の導入が進み始めた。

» 2012年09月12日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 本来であれば水力発電は化石燃料に依存しない再生可能エネルギーの代表格のはずだが、大規模なダム式や火力・原子力発電を必要とする揚水式が主流のため、再生可能エネルギーに分類されないことが多い(図1)。もともとは自然な水の流れを生かした発電方法であり、一定規模以下の発電設備であれば固定価格買取制度の対象として認められる。

図1 水力発電の主な方式。揚水式(左)は火力や原子力発電を使うために固定価格買取制度の対象外。出典:電気事業連合会

 特に注目を集めているのが発電規模の小さい「小水力発電」と呼ばれるもので、通常は発電能力が200kW未満の場合を指す。この小水力発電のコストや効率性を太陽光発電と比較してメリットとデメリットをまとめてみる。

水の流れは安定、発電量も落ちない

 最新の太陽光パネルの発電能力は面積が1平方メートルあたりで150W程度である。仮に150kWの発電能力を実現するには、1000平方メートル分の太陽光パネルが必要になる計算だ。これに対して200kW以下の小水力発電に必要な水車の大きさは直径1メートル以下のものが多く、収容する建物も小規模で済む(図2)。

 発電設備の形態が違うので単純な比較はできないものの、太陽光発電よりも用地は小さくて十分だろう。特に河川に近くて水を大量に使う工場や農地に向いている。

図2 小水力発電の仕組み。出典:全国小水力利用推進協議会

 では実際にかかる建設費や期待できる発電量はどうなのか。環境省が分析した結果では、1kWhの電力を作るコストは太陽光発電よりも低い(図3)。その最大の要因は天候による影響が小さいことにある。

 太陽光や風力の場合は、1kWの発電能力があっても、実際に得られる電力量は平均すると1割〜2割程度まで落ちてしまう。これに対して小水力発電では水量や落差によって決まり、平均して7割程度の発電効率(設備利用率)を維持することができる。水の流れは雨の影響などはあるものの、太陽の日射量や風の強さほどには大きく変動しない。

図3 小水力発電・太陽光発電・風力発電の比較。出典:環境省

発電効率が7割ならば10年で元をとれる

 最大の問題点は建設費と運転維持費の高さである。固定価格買取制度における見積もりでは、発電能力が200kW未満の小水力発電の場合、建設費は1kWあたり100万円で、太陽光発電の2倍以上になる。運転維持費も年間で7万5000円/kWと他の発電方法を大きく上回る(図4)。

 仮に100kWの小水力発電を実現させるとなると、建設費で1億円、運転維持費で毎年750万円かかる。もちろんこの費用を前提に買取価格が決められているため、他の発電方法と比べて決して不利ということはない。

 200kW未満の場合の買取価格は税引き後で34円/kWhに設定されている。発電効率が平均的な7割と想定すると、100kWの発電設備で年間に約60万kWhの電力を作り出すことができ、2000万円程度の収益を見込める。10年間で建設費と運転維持費を十分にカバーして元をとれる計算が成り立つ。

 あとは水量や落差によって決まる発電効率の高い場所を選ぶことである。もし発電効率が5割まで下がってしまうと、採算が合うまでに15年以上かかり、買取期間の20年のうちにコストを回収できないおそれもある。設備を導入する前に入念な設計が必要だ。

図4 発電方法別に定められた固定買取価格。出典:資源エネルギー庁

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連載(1):「日本のエネルギー市場を変革する、新制度がスタート」

連載(2):「電力を高く売るための条件、少しでも安く使う方法」

連載(3):「買取拒否と接続拒否ができる、新制度に残る運用上の問題」

連載(4):「太陽光発電の事業化が加速、10年で採算がとれる」

連載(5):「風力発電が太陽光に続く、小型システムは企業や家庭にも」

連載(7):「地熱発電の巨大な潜在力、新たに「温泉発電」も広がる」

連載(8):「バイオマスは電力源の宝庫、木材からゴミまで多種多様」

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