買取拒否と接続拒否ができる、新制度に残る運用上の問題解説/再生可能エネルギーの固定価格買取制度(3)

スタートしたばかりの「固定価格買取制度」には問題点がいくつかあり、再生可能エネルギーの拡大を阻む要因になりかねない。特に懸念される問題は、電気事業者に対して「買取拒否」と「接続拒否」を認めている点だ。発電した電力を買い取ってもらえない事態は十分に起こり得る。

» 2012年07月18日 09時30分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

連載(1):「日本のエネルギー市場を変革する、新制度がスタート」

連載(2):「電力を高く売るための条件、少しでも安く使う方法」

 電力を高い価格で買い取ってもらうためには、発電設備の能力など、いくつかの条件があることを前回に説明した。しかし設備面の条件をクリアしても、実際の運用面の問題によって電力を買い取ってもらえないことがあるので注意が必要だ。

 その多くは電力ネットワークの技術的な制約が要因になっており、複雑で難解な問題だが、ひととおり理解しておかないと損失を被ることになりかねない。重要な点に絞って、できるだけ分かりやすく解説してみる。

発電量が足りないと補給費用を求められる

 発電する側にとって最も厄介な事態は、電気事業者から買取を拒否される場合である。新制度では状況によって「買取拒否」を認めている。

 まず発電した電力を電気事業者に買い取ってもらうためには、電気事業者との間で「特定契約」という買取の条件などを規定した契約を結ぶ必要がある。その契約の中で、電力ネットワークに特有の要因によって買取を拒否することが法律で認められている。

 特に発生する可能性が大きい問題は2つある(図1)。1つは発電量が契約よりも少なかった場合に、電気事業者が不足分を補給する必要があり、その費用を発電する側が負担することに合意しなくてはならない。合意しない場合は買取を拒否することができる。

 もう1つは太陽光や風力など、気象条件によって発電量が安定しない再生可能エネルギーで生じる問題だ。その不安定さによって、電気事業者が適切なサービスを利用者に提供できなくなるおそれがある場合には、買取を拒否できることになっている。

 2つの問題ともに発電する側では解決が難しいことだが、それに伴う費用負担や売上損失の可能性があることは想定しておいたほうがよい。特に太陽光と風力の場合はリスクとして見込んでおく必要がある。

図1 再生可能エネルギーの買取拒否と接続拒否に関する主な規定 図1 再生可能エネルギーの買取拒否と接続拒否に関する主な規定

電力会社の事情によって接続を拒否できる

 さらに「接続拒否」という別の問題がある。これはいっそう複雑で、しかも電気事業者側の事情によるところが大きいため、発電する側にとっては対策の打ちようがない。主な要因は図1にまとめたように3つある。この接続拒否の問題を理解するためには、電力ネットワークの「接続」について知っておかなくてはならない。

図2 電力会社が送配電ネットワークを他社に提供する「接続供給」 図2 電力会社が送配電ネットワークを他社に提供する「接続供給」。出典:北海道電力

 電力ネットワークにおける「接続」は、実際には電力会社の送配電ネットワークを借用することを意味する。日本の送配電ネットワークのほとんどは地域別の電力会社が所有しており、どこかで発電した電力をほかの利用者のところに送るためには、電力会社のネットワークを使うのが一般的である(図2)。

 このために起こる可能性のある問題が3つあって、それを理由に電気事業者(通常は電力会社)は発電者に対して接続を拒否することができる。1つ目の問題は発電設備と電力ネットワークをつなぐための「電源線」の敷設費用の負担だ。たいていの場合は電力会社が敷設工事を担当することになるが、その費用を発電者側が負担しなくてはならず、合意しない場合は電力会社が接続を拒否できる。

 残る2つの問題は電気事業者側の事情によるものである。地域内の電力供給量が需要を上回ることが想定される場合、あるいは送電する量がネットワークの許容範囲を超えることが想定される場合には、受け入れる電力を減らしたり、拒否したりすることができる。

 いずれの場合でも電気事業者は明確な根拠を書面で説明するように義務付けられている。とはいえ、その根拠に反論して状況を覆すことは極めて難しいと考えられる。

新電力に対する接続条件が緩和

 7月1日から固定価格買取制度が始まるのに合わせて、電力会社のネットワークは従来よりも開放された。再生可能エネルギーの買取を義務付けられている新電力などの電気事業者が電力会社のネットワークを使って売買できるのは、企業を対象にした「高圧」に限定されていた。これが家庭を対象にした「低圧」の利用者によって発電された電力でも取り扱えるように制限が緩和された(図3)。

図3 新電力などが電力会社の送配電ネットワークを使って電力を売買できる対象 図3 新電力などが電力会社の送配電ネットワークを使って電力を売買できる対象。2012年7月1日から、家庭の太陽光発電システムなど「低圧電源」からの電力も買い取ることが可能になった。出典:東北電力

 さらに新電力などが電力会社のネットワークを使う場合に支払う接続料金も一部が値下げされて、使いやすくなった。これにより企業や家庭で発電した電力を、電力会社ではなくて新電力などに買い取ってもらえるケースが増える期待がある。より条件の良い電気事業者を選択できるようになるわけだ。

 ただし新電力などに買い取ってもらう場合には、発電設備を電力会社のネットワークに接続する必要があるため、冒頭で説明したように発電量が不足した場合の補給費用を負担しなくてはならないリスクが生じてしまう。発電量が不安定な太陽光や風力の場合は避けたほうが無難と言える。

 これから新制度の適用事例が増えるにつれて、買取拒否や接続拒否の問題が徐々に顕在化してくることが予想される。状況次第では政府が規定を見直すなどして、事態の改善に乗り出す必要があるだろう。

 再生可能エネルギーの拡大は、我が国の将来に向けて最も重要な課題の一つである。買い取る側の電気事業者を含めて、新制度を有効に活用する方策を最大限に講じてもらいたいところだ。

*この記事の電子ブックレットをダウンロードへ

連載(4):「太陽光発電の事業化が加速、10年で採算がとれる」

連載(5):「風力発電が太陽光に続く、小型システムは企業や家庭にも」

連載(6):「水力発電に再び脚光、工場や農地で「小水力発電」」

連載(7):「地熱発電の巨大な潜在力、新たに「温泉発電」も広がる」

連載(8):「バイオマスは電力源の宝庫、木材からゴミまで多種多様」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.