電力会社に依存しすぎない日本へ、電気事業の参入企業が増える電力供給サービス

これまで地域別の電力会社に大きく依存してきた日本の電力事情が変わり始めた。企業向けに電力を供給できる「特定規模電気事業者」が2012年に入ってから13社も増えて、合計で58社になり、さらに増加する勢いだ。電気料金の低下や新サービスの登場も期待できる。

» 2012年05月22日 16時39分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 製紙業界大手の日本製紙が5月16日に、「特定規模電気事業者(略称PPS)」として資源エネルギー庁から認可を受けたことを発表した。同社は関東と東北の工場に大規模な発電設備を保有しており、自社で利用して余る分の電力を東京電力と東北電力に供給してきた。最大で約10万kWの外部供給能力があり、通常の太陽光発電所(メガソーラー=1000kW以上の発電能力)を大きく上回る。今後は一般企業にも電力を供給できるようにPPSの免許を取得した。

 日本製紙が認可を受けたことで、国内のPPSは58社になった。このうち2011年にサービスを開始した事業者は日産自動車をはじめ8社だったが、すでに2012年は日本製紙を含めて新たに13社がサービスを開始済みあるいは開始予定である。

 PPSは2000年に三菱商事グループのダイヤモンドパワーが最初の認可を受けて以降、2010年までは平均すると毎年3社強の参入にとどまっており、ここ2年間の増加が目立つ。既存の電力会社の供給能力が不安視される中で、電力の安定供給と新規事業の両面から、電気事業に新規参入する企業はさらに増えそうだ。

日本の電気事業者は6種類に分かれる

 実は日本国内で電力を供給できる事業者は法律によって6種類に分けられており、それぞれで電力を販売できる対象などが厳しく規定されている(図1)。

ALT 図1 日本国内の電気事業者の区分

 東京電力をはじめとする地域別の電力会社は「一般電気事業者」に区分される。家庭を含めて不特定多数の利用者に電力を供給できるのは一般電気事業者だけである。この一般電気事業者に対して自家発電による電力を供給するのが「卸電気事業者」と「卸供給事業者」で、企業などに電力を小売りすることはできない。

 これに対して小売りができるのが「特定規模電気事業者(PPS)」である。このほかに地域限定や関係者限定で電力を供給する「特定電気事業者」と「特定供給」という区分があるが、電力会社以外で広範囲に電力を販売できるのはPPSだけである。ただし実際にPPSが企業などに電力を供給するためには、電力会社の送配電ネットワークを使う必要がある(図2)

ALT 図2 電気事業者の位置づけ。出典:資源エネルギー庁

発送電分離、電力小売の規制撤廃も

 PPSは電力会社に対して送配電ネットワークの接続料を支払わなければならず、その金額が問題視されている。電力会社にとってPPSは競争相手にもなるため、接続料を高くすることで、PPSが企業向けに販売する電力の単価を下げにくくできるからだ。通信事業においてNTTの接続料が問題視されたのと同じ構図である。

 そこで電力会社の送配電ネットワークを発電部門と独立の事業にして、電気事業者間の公平性を高める「発送電分離」が取りざたされている。先ごろ東京電力が事業構造改革の一環で検討を開始した。実現までには解決しなくてはならない問題点が数多くあるが、日本の電気料金を抜本的に引き下げるためには不可欠な施策である。

 一方で電力の利用者側に向けた市場開放も進み始めた。現在のところPPSが電力を販売できるのは、企業など大口利用者向けの「高圧」(契約電力50kW以上)だけだが、経済産業省は対象を家庭にまで広げる方針で、2014年度にも規制が撤廃される可能性が大きい。

 そうなると、PPSが多様な料金プランやサービスメニューを家庭や商店などに対しても提案できる。電力と組み合わせた通信サービスやセキュリティサービスなどの登場が予想され、新たな市場が生まれる期待は大きい。

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