ガス会社と石油会社のメガソーラー計画から考える「ベストミックス」自然エネルギー

11月末から12月初めにかけてガス会社と石油会社、つまり現在日本で主力となっている化石燃料を販売する会社が相次いで巨大メガソーラー建設計画を明らかにした。どちらの計画にも「エネルギーの多様化」という狙いが見える。しかし日本政府が示すエネルギーベストミックスの姿はまだ見えない。

» 2012年12月07日 07時00分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

再生可能エネルギーの老舗

 石油元売大手の出光興産は、兵庫県姫路市に保有する兵庫製油所跡地(図1)に最大出力が10MW(1万kW)のメガソーラーを建設する。年間発電量は約1万3000MWh(1300万kWh)となる見込み。発電した電力は固定価格買取制度を利用して全量関西電力に売電する。

図1 出光興産がメガソーラー建設を計画している兵庫製油所跡地

 兵庫製油所は2003年4月に閉鎖し、設備を解体した後は未利用地になっていた。現在は敷地の一部にパナソニック液晶ディスプレイの液晶パネル工場と出光興産の関連会社である出光ユニテック工場が建っている。それでもかなりの面積の土地が未利用のまま残っている。メガソーラーは未利用地のうち22万5000m2を利用して建設する。2012年度中に建設を始め、2014年3月の稼働開始を目指す。

 固定価格買取制度を利用する際に必要な経済産業省による設備認定と、関西電力との連系協議はすでに済んでおり。1kW当たり42円で売電できる見通しだ。

 出光興産の再生可能エネルギーへの挑戦の歴史は長い。1977年に「新燃料室」という部署を作り、石油にとどまらず広く日本のエネルギーを支えるという目標を掲げ、石油代替エネルギーの開発、事業化を始めている。1996年からは九州電力の滝上発電所に発電用蒸気の供給を開始し、2010年には二又風力発電所(青森県上北郡六ヶ所村)を運営する二又風力開発株式会社に資本参加している。今回のメガソーラー計画もこのような取り組みの延長だという。

エネルギーの分散化、多様化

 福岡、長崎、熊本の3県に都市ガスを供給している西部(さいぶ)ガスは、北九州市の響灘地区(北九州市若松区向洋町)にある約25万6000m2の土地にメガソーラーを建設する。この土地は旭硝子が産廃処理場として利用していたもので、処理能力の限界を迎え、未利用地となっていたところだ(図2)。西部ガスの100%子会社で再生可能エネルギーの開発を進めているエネ・シードが土地を賃借する。

図2 西部ガスがメガソーラー建設を計画している場所。旭硝子が保有している

 事業開始に当たり、メガソーラーの建設、運営を担当する事業会社「エネ・シードひびき」を設立する。エネ・シードが51%、旭硝子が49%の割合で出資する予定で、出資比率に応じて売電収入を分け合うという。2013年4月に着工し、2014年2月に一部の稼働を始める予定。全面稼働は2014年9月となる見通しだ(図3)。

図3 西部ガスのメガソーラー完成予想図

 メガソーラー最大出力は約20.5MW(2万5000kW)で、発電した電力は固定価格買取制度を利用して全量九州電力に売電する。そのために必要な経済産業省による設備認定と、九州電力との連系協議は2012年度中に完了する予定だ。

 西部ガスは2012年2月にエネ・シードを設立し、同時に長崎県長崎市、北九州市若松区、福岡県大牟田市にある西部ガスの未利用地を利用してメガソーラーを建設する計画を発表している。最大出力は長崎が約0.6MW、北九州が約1.8MW、大牟田が約1.3MWだ。7月には大牟田と長崎の建設を始め、10月にはどちらも稼働を開始している。北九州は9月に着工しており、12月中に運転を始める予定だ。

 エネ・シード設立時に、西部ガスは狙いの1つとして分散化と多様化によるエネルギーセキュリティの向上を挙げている。分散化については、メガソーラーのような小規模なエネルギー源を各地に配置し、その周辺で消費する「地産地消」を考えている。多様化についてはガスだけではなく、多様なエネルギーの可能性を探るということだろう。現在のところエネ・シードはメガソーラーしか手掛けていないが、西部ガスは今後は風力などほかの再生可能エネルギーの利用も検討するとしている。

新しい「ベストミックス」はどうなるのか

 出光興産は今回のメガソーラー計画の目的の1つとして、日本のエネルギーベストミックスの構築に貢献することと国産エネルギー確保も挙げている。どちらも西部ガスが挙げるエネルギーセキュリティの向上に強く関係する。エネルギーベストミックスを考えるときは、確実に確保できるエネルギーに依存する比率を上げる、つまりエネルギーセキュリティを上げることで、必要なエネルギーを確実に供給するということを考える必要があるからだ。

 東日本大震災以前、政府はCO2削減やエネルギーの安定確保を考えてエネルギーベストミックスを作った。それは、石油、石炭、液化天然ガスという化石燃料に加えて、CO2排出量が少ない原子力に頼るというものだった。しかし、大震災に伴う福島第一原子力発電所で発生した深刻な事故の影響で全国の原子力発電所は停止した。現在ではすぐに再稼働させることは世論が許さないだろう。

新政権が進む方向は?

 12月16日の総選挙の結果、どの政党が与党の座をつかむかはまだ分からない。次の政権は、日本のエネルギーベストミックスを決めるという難しい仕事に取り組まなければならない。福島第一原子力発電所の事故以前のように原子力に大きく依存する計画に賛成する国民はほとんどいないだろう。しかし、CO2排出量削減目標を掲げている以上、現在のように火力発電ばかりに頼るという計画も現実的とは言えない。

 原子力や火力発電と比べると、再生可能エネルギーの発電量が少ないことは事実だ。CO2排出量削減目標を守りながら、原子力にまったく依存せず、不足分を再生可能エネルギーで賄うということは現時点では不可能だろう。CO2排出量が増えることを覚悟しながら火力発電に頼るか、少しだけでも原子力発電所を再稼働させるということになる可能性が高い。

 しかし、震災以前の日本は再生可能エネルギーを活用しようと考えようともしていなかった。2011年度の実績では、日本全国の発電量のうち、再生可能エネルギーが占める率はわずか1.4%だ。再生可能エネルギーにはさまざまな種類があるというのに、この比率は少なすぎるだろう。

 日本はエネルギー資源のほぼすべてを輸入に頼ってきた、今でもそれは変わらない。販売価格が急に上がったり、原産国の政情が不安定になるだけで各社はエネルギー確保に苦労し、一般市民はガソリン価格の上昇という形で被害を受けている。再生可能エネルギーに目を向けず、エネルギー源のほとんどを海外からの輸入に頼ってきた今までの政策は果たして正しかったのだろうか。

 再生可能エネルギーによる発電量はまだまだ小さいが、CO2排出量削減に貢献できるだけでなく、燃料が不要、あるいは日本で入手できるという化石燃料にない特長を持っている。エネルギーセキュリティ確保に向いていると言えないだろうか。

 地熱発電などさまざまな発電方式を組み合わせれば、ある程度の量の電力を供給できるはずだ。技術革新が進めば、発電量も次第に大きくなっていくだろう。必要なエネルギーを確実に確保するエネルギーセキュリティを考えると、国のエネルギー政策の根幹となるエネルギーベストミックスで再生可能エネルギーの比率を大きく設定することも必要ではないだろうか。

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