全国で海に面していない「内陸県」は8つある。その中で面積が最も小さいのが奈良県だ。県内の8割近くは森林地帯で、吉野杉で有名なスギをはじめ木質バイオマスの原材料が豊富に存在する。5つの市町村を中心にバイオマスを活用した再生可能エネルギーの拡大計画が始まった。
奈良県の再生可能エネルギーの導入規模は全国で45位、沖縄県と香川県に次いで3番目に少ない(図1)。3つの県に共通するのは面積が小さいことだが、奈良県だけは海に面していない。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを拡大するのは難しい状況にある。
その中で有望なのがバイオマスだ。面積の小さい奈良県だが、実に77%を森林が占めている。特に多いのはスギとヒノキで、住宅や家具に大量に使われている。
奈良県が2004年に調査した結果では、県内のスギとヒノキの伐採量は2016年〜2020年を底に、2050年に向けて大幅に増加していく傾向にある(図2)。
スギやヒノキ以外を含めて県内の林業全体から得られる木質バイオマスの利用可能量は年間で40万〜60万トンにのぼると推定されている。一般に木質バイオマスをチップにして燃焼させることで得られる発電能力は、年間1万トン相当のチップで1万kWになる。単純に計算すると、すべての木質バイオマスを発電に活用できれば40万〜60万kWの電力に転換できるわけだ。中規模の火力発電所に匹敵する。
今のところ奈良県内に規模の大きいバイオマス発電設備は見当たらないが、2011年度から木質バイオマスの利用施設などに対して設置費用の2分の1までを県が補助する制度を開始した。固定価格買取制度も始まり、一方で林業そのものが低迷していることから、これから着実に導入プロジェクトが増えていくだろう。
すでに県内では5つの市町村が「バイオマスタウン構想」を発表している。このうち林業が盛んな吉野町では2016年度をメドに、木質バイオマスを燃料に使えるボイラーなどの導入を推進する計画だ。各市町村ともに木質バイオマスのほか、食品や家畜の廃棄物を活用したバイオマスエネルギーの拡大にも取り組む。
奈良県では将来に向けて県内の発電設備を増強することが重要な課題になっている。原子力発電の比率が高い関西電力の供給量のうち約5%を県全体で消費する一方、大規模な発電設備は120万kWの揚水発電所(図3)が1か所ある程度だ。
電力の自給率を見ると近隣の県と比べて圧倒的に低い(図4)。同様に自給率が低い滋賀県では日射量の多さを生かして太陽光発電を大幅に増やし始めており、農作物などを活用したバイオマスにも積極的に取り組んでいる。
奈良県と滋賀県はともに2013年3月末までに、再生可能エネルギーを拡大して電力の自給率を高めるための長期ビジョンをとりまとめる予定だ。奈良県でも有望なバイオマスに加えて太陽光発電や小水力発電の導入拡大策を検討中である。
2014年版(29)奈良:「内陸県に広がる太陽光とバイオマス、導入目標を60MW上乗せ」
2013年版(29)奈良:「北の大和盆地で小水力発電、南の吉野山地にメガソーラー」
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