日本には海のない県が8つあるが、その中で奈良県の面積が最も小さい。資源が限られる環境でも再生可能エネルギーの導入量は目標を上回るペースで増え続けて、6年間で約4倍の規模に拡大する見込みだ。太陽光発電が県内各地に広がり、地域の間伐材を利用したバイオマス発電も始まる。
奈良県が再生可能エネルギーの導入促進に向けて「奈良県エネルギービジョン」を策定したのは2013年3月のことである。それから約1年半が経過して、当初掲げた2015年度までの導入目標を大幅に上方修正した。太陽光発電を中心に60MW(メガワット)を上乗せできる見通しだ(図1)。
追加した分にはバイオマス発電の6MWも含まれている。奈良県の中部に位置する大淀町(おおよどちょう)で、6MW級の木質バイオマス発電所が2015年度末に運転を開始する予定だ。県内の産業廃棄物事業者が設立した「クリーンエナジー奈良」が発電所の建設・運営にあたるほか、燃料に使う間伐材の調達を近隣の桜井市の森林組合が支援する(図2)。
同じ大淀町では太陽光による「近鉄花吉野ソーラー発電所」が2014年3月から運転を開始している(図3)。近鉄グループが開発した住宅地の「花吉野ガーデンヒルズ」の一角にある6万平方メートルの敷地を利用して建設した。発電能力は3MWあって、約1000世帯分の電力を供給することができる。
このメガソーラーは電気自動車と組み合わせて、「災害時に活用できる電力供給システム」になる点が特徴だ。太陽光で発電した電力は平常時には関西電力に供給して売電収入を得ながら、災害時には電力の供給先を電気自動車用の急速充電器に切り替えられるようになっている(図4)。
電力を蓄えた電気自動車は住宅地の中にある公民館まで移動して、そこに設置されている電力変換装置を通して公民館に電力を供給する方法だ。この公民館は地域の避難所になっている。すでに奈良県と大淀町は住民と共同で避難訓練を実施して、メガソーラーと電気自動車を組み合わせた電力供給システムの有用性を検証した。
太陽光やバイオマスと比べると発電規模は小さいが、小水力でも新しい設備が動き出している。北部の山添村(やまぞえむら)にある「上津(かみづ)ダム」で2014年10月から発電を開始した(図5)。ダムから放流する維持流量を利用して、53kWの電力を供給することができる。
年間の発電量は38万kWhを見込んでいて、一般家庭で約100世帯分の電力使用量に相当する。上津ダムは周辺地域に農業用水を供給するために造られたダムである。小水力発電所を運営する「大和高原北部土地改良区」は売電収入を農業用施設の維持管理費に充当する方針だ。
奈良県内で固定価格買取制度の認定を受けている設備は2013年末の時点では太陽光と中小水力だけである(図6)。中小水力の発電規模は全国でも11位になっていて、太陽光やバイオマスと合わせて今後の拡大が期待できる。内陸県ならではの取り組みは着実に広がっていく。
*電子ブックレット「エネルギー列島2014年版 −関西編Part2−」をダウンロード
2016年版(29)奈良:「バイオマス発電で林業に活力を、山深い村には小水力発電が復活」
2015年版(29)奈良:「歴史のまちに小水力と太陽光発電、自然のエネルギーから地域を再生」
2013年版(29)奈良:「北の大和盆地で小水力発電、南の吉野山地にメガソーラー」
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