全国で再生可能エネルギーのモデル地域になっている場所がいくつかある。その中のひとつが島根県の出雲市だ。出雲大社で有名な観光地に日本最大の風力発電所が稼働していて、さらに木質系を中心としたバイオマス発電でもユニークなプロジェクトが進んでいる。
いまや島根県は西日本の中で鹿児島県に次ぐ風力発電所の集積地だ。全国でも5番目の導入規模になるほど広がっていて(図1)、発電能力が20MW(メガワット)を超えるような大規模なものが3か所にある。
その中で最大の規模を誇るのが「新出雲ウインドファーム」。現時点で日本最大の風力発電所である。日本海に突き出た岬に広がる山並みに、デンマーク製の大型風車26基が連なる。合計で78MWに達する巨大な発電設備が海からの強い風を受けて稼働している(図2)。
周囲の美しい風景をできるだけ損ねないように、送電線はすべて地下に埋設した。その総距離は39キロメートルに及び、中国電力の送電網を通じて企業や家庭に電力を供給している。発電量は一般家庭の4万世帯分になり、出雲市の電力需要の約8割に相当する。もう少し風車を増設すれば、市内の電力を100%自給できるほどである。
出雲市は2008年に「次世代エネルギーパーク整備計画」を策定して、再生可能エネルギーの導入を推進してきた。この計画では「環境と観光の融合」をテーマに掲げ、再生可能エネルギーの取り組みを全国に発信することで、企業の誘致と観光客の増加を図る目的がある。
その一環で市内の海岸に小規模な風力発電所を設置して、自然環境との調和を示す試みも実施した(図3)。将来を担う子供たちの身近な場所で、新しいエネルギーの姿を見せる教育的な狙いもある。
風力発電に加えて出雲市が重点を置いて取り組んできたのがバイオマスである。中でも「出雲バイオマスエネルギープラント」で実施しているプロジェクトの内容は先進的だ(図4)。
このプラントでは木質バイオマスなどの資源をガスに変換して、電力・熱・水素の3つのエネルギーを作り出す。「ブルータワーシステム」と呼ぶ方法で、ガスコージェネレーションと同様に電力(3000kW)と熱を生成しながら、水素ガスも作り出して燃料電池に活用することができる。これから政府が普及を図る燃料電池自動車のエネルギー源になる。
島根県内で実施中のバイオマスの開発プロジェクトとしては、中国電力による「木質バイオマス石炭混焼発電」も注目される。通常の石炭による火力発電の燃料の中に木質バイオマスを混ぜ合わせることで、石炭の使用量とCO2の排出量を削減する試みである。
中国電力が2011年から新エネルギー導入促進協議会の補助金を受けて、浜田市にある三隅発電所で実証実験に取り組んでいる。発電能力が100万kWの大規模な石炭火力発電設備を使って、県内の林業で発生する残材をチップにして石炭に混在させる(図5)。
これまでの実験の結果から、年間に2.6万トンの木質バイオマスを石炭と混焼させて、約3000万kWhの電力をバイオマスから生成できることが実証されている。太陽光発電に換算すると約30MWの規模に相当する。
島根県全体では面積の79%を森林が占めていて、木質バイオマスは豊富に存在する。出雲市を含めて9つの市町村がバイオマスタウン構想を発表しており、県内各地で木質バイオマスや廃棄物を有効に活用する取り組みが広がってきた。
2014年版(32)島根:「日本海に浮かぶ4つの島、再エネと蓄電池による電力供給に挑む」
2013年版(32)島根:「森林率78%が生み出す木質バイオマス、日本海の風は77基の大型風車へ」
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