日本の電力市場が変わる、小売自由化と発送電分離を2016〜2020年に法制度・規制

いよいよ電力市場が開放に向かって動き出す。政府の電力システム改革専門委員会が小売の全面自由化と発送電の分離を含む改革案を提示した。これにより小売事業と発電事業の競争が本格的に始まることになる。小売自由化は2016年、発送電分離は2018〜2020年をメドに実施する。

» 2013年02月12日 11時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 今後の電力市場の構造改革を提言する「電力システム改革専門委員会」の報告書が2月8日にまとまった。大方の予想に反して、実施スケジュールまで含めた抜本的な改革案が盛り込まれている。所管する経済産業省の茂木敏充大臣の意向が強く働いた結果であり、改革に向けた政府の意気込みが感じられる内容だ。

 電力市場の改革は3段階で進める。第1段階は市場の開放に向けた環境整備のフェーズで、中立的な機関を設置して市場の健全性を維持できるようにする。これまで地域別に分かれていた電力市場を全国レベルで計画的に運用するための「広域系統運用機関」を、2015年をメドに設置する。

 次の第2段階が小売の全面自由化で、2016年に実施する方針だ。従来は電力会社しか販売できなかった家庭を中心とする「低圧」(契約電力50kW未満)の市場を開放する。これにより新電力などの事業者が自由な料金設定で家庭向けに電力を販売できるようになる。

 そして最後の第3段階が、市場開放の決め手になる発送電の分離である。正確には電力会社が運営する発電−送配電−小売の一貫体制を分断することを意味する(図1)。

図1 改革後の電力市場の構造。出典:電力システム改革専門委員会

「法的分離」により送配電部門を独立組織に

 電力会社の送配電部門を独立の中立的な組織にすれば、さまざまな発電事業者と小売事業者が公平な条件で送配電ネットワークを使って電力を供給できるようになる。その結果、発電事業と小売事業が競争市場になり、価格とサービスの両面で利用者にメリットが生まれる。

 このような発送電分離を実現するためには、数多くの事業者が介在しても電力を安定して供給できる体制を構築する必要がある。細かな規定や制度、さらにはシステムの整備が不可欠になる。そうした環境を整えるには5〜7年かかると想定して、実施時期を2018〜2020年に設定した。

 電力会社から送配電部門を独立させる方式についても明確にした。発電部門や小売部門とは別の会社にする「法的分離」を前提にする考えだ(図2)。法的分離では電力会社との資本関係は残る。本来は資本関係も解消する「所有権分離」が中立性の点では望ましい。法的分離で十分な中立性を実現できない場合には、所有権分離への移行も検討する。

図2 電力会社の送配電部門を中立的な組織にする方式。出典:電力システム改革専門委員会

電気料金の規制も段階的に撤廃へ

 小売自由化に続いて発送電分離を実現できた時点で、電力市場は健全な競争状態になるため、電気料金の規制も撤廃する。ただし小売自由化から発送電分離までの期間は、まだ電力会社が有利な状態にあるため、経過措置を設けて利用者が不利益を被らないようにする。

 この経過措置の間は、利用者に3つの選択肢が与えられる。新電力などから自由料金で購入する、あるいは電力会社から自由料金で購入するほかに、最終手段として電力会社から規制料金で購入することも可能にする(図3)。どのような不利な状況にあっても、必ず一定の料金で電力を購入できるようにするための措置だ。

図3 電気料金の規制を撤廃するまでの経過措置。出典:電力システム改革専門委員会

 発送電分離によって事業者が公平な条件で競争できるようになっても、離島などでは高い料金でしかサービスが提供されない状況や、最悪の場合には電力の供給そのものが受けられなくなる可能性が残る。そうした事態を回避するために、規制機関を新たに設置して、利用者を保護するためのセーフティネットを構築する。

 このほかにも、小売事業者が電力を安定的に確保できるように「卸電力市場」を活性化する施策なども改革案の中に盛り込んだ。

 経済産業省は委員会の報告書をもとに、電気事業法の改正案を国会に提出する。順調に進めば2014年度には改正法が施行されて、改革に向けた3段階の施策が始まる。

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