電力市場の全面自由化に向けて、新制度の設計が進む法制度・規制

家庭を含めた電力市場の全面自由化に向けて、小売・供給・送配電の3分野を対象に新しい電力システムの制度設計が進んできた。自由な市場でも利用者が安定した電力供給を受けられるように、「最終保障サービス」と「ユニバーサルサービス」を実現する制度の骨格が国から提案された。

» 2012年12月10日 13時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 経済産業省が2012年2月からスタートした「電力システム改革専門委員会」の第10回会合(12月6日開催)で、小売の全面自由化に必要な制度設計をはじめ、電力市場を開放するための具体案が数多く示された。この委員会は7月に小売・供給・送配電の3分野に関する基本方針を示しており、特に小売の自由化に焦点を当てた新制度の骨格を提示した。

 最も重視した点は電力の需要家(利用者)を保護するための施策である。小売が自由化されても確実に電力の供給を受けられる「最終保障サービス」と、全国各地の電気料金に格差をつけないようにする「ユニバーサルサービス」の実現が最重要の課題になっている。そのため供給側の電気事業者に対して最終保障とユニバーサルサービスを義務づける制度などを設ける考えだ。

最後に残された「低圧」の市場

 国内の電力小売市場は2000年3月から段階的に自由化が進められてきた(図1)。最初は大口の需要家を対象にした「特別高圧」から始まり、2005年4月からは契約電力が50kW以上の「高圧」も自由化の対象になって、電力会社以外の電気事業者から電力を購入できるようになった。

 残るのは店舗や家庭などを対象にした「低圧」だけだが、需要家側の力が相対的に弱いことから、不利益を被らないようにするための保護策が必要になる。委員会の案では、電気事業者に対して特別高圧・高圧・低圧ごとの販売電力量と売上高の報告を義務づけ、料金水準の格差を是正できるようにする対策などが盛り込まれている。

図1 契約電力による小売自由化の流れ。出典:資源エネルギー庁

 小売の自由化で重要な役割を担うのが新電力(特定規模電気事業者)である。現在のところ電力会社(一般電気事業者)のほかに小売が可能なのは新電力しかない(図2)。新電力は70社が登録されているが(2012年11月26日時点)、通常は電力会社の送配電ネットワークを使って需要家に電力を供給している。

 これを可能にするのが「託送制度」で、送配電を請け負う電力会社は需要家側の使用量を把握しながら供給する電力を調整することが求められる。そのためには通信機能をもったスマートメーターを需要家側に設置する必要がある。全国でスマートメーターの設置が本格的に始まるのは2014年度からになる見込みで、電力会社以外から供給を受ける需要家に対しては優先的にスマートメーターを設置することも検討する。

図2 電力を供給する電気事業者の位置づけ。出典:資源エネルギー庁

発送電分離までの経過措置も用意

 さらに最終保障サービスとユニバーサルサービスを実現するために、経済産業省が特定の「小売電気事業者」と「送配電事業者」を指定して、一定の条件で電力の供給を義務づける案も有力だ。実際には現在の電力会社が指定の対象になる。

 電力市場を完全にオープンな形にするためには、電力会社の送配電ネットワークを独立させる「発送電分離」が不可欠だ。それが実現できるまでの間は経過措置として、電力会社がすべての需要家に対して最終保障サービスを提供するような制度も必要になると考えられている(図3)。

図3 小売の全面自由化に向けたプロセス。出典:電力システム改革委員会

 このほか改革に向けた第2の分野である電力の供給面についても、小売電気事業者と送配電事業者の間の需給調整の仕組みなどを示した。第3の送配電に関しては年内に具体案をとりまとめる予定になっている。

 3分野の施策を合わせて、年明けからは詳細な実施スケジュールを詰めることになる。これまで抽象的にしか語られてこなかった電力市場の全面自由化が徐々に現実味を帯びてきた。

*この記事の電子ブックレットをダウンロードへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.