電力改革のグランドデザインが固まる、小売・供給・送配電を開放へ電力供給サービス

日本の電力システムを抜本的に改革するための検討会議「電力システム改革専門委員会」による素案が7月13日に発表された。小売、供給、送配電の3つに関して基本方針をまとめたもので、電力会社に依存した閉鎖的な体制から脱却する道筋を示している。

» 2012年07月18日 10時03分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 「国民に開かれた電力システムを目指して」という副題が付けられた基本方針の説明資料には、意欲的な改革案が盛り込まれた。実現までには解決すべき課題が数多くあるものの、国全体が進むべき方向を明確に示した点で重要な一歩と言える内容だ。東日本大震災によって露呈した日本の電力システムの問題点を解消するために、小売・供給・送配電の3分野に関して改革の基本方針を提言している。

 小売に関しては、家庭向けを中心とする小口利用者が地域別の電力会社以外からでも電力を購入できるようにして、全面的な自由化を実現する。それに伴って電力の安定供給を図りつつ、競争による料金の低減やサービスの充実を促進する方針だ。すでに一部の地域で始まっている電力の需給状況に応じたデマンドレスポンス型の料金体系の拡充も図る(図1)。

図1 電力の需給状況に応じたデマンドレスポンス型の料金体系の例 図1 電力の需給状況に応じたデマンドレスポンス型の料金体系の例。出典:電力システム改革専門委員会

 供給に関しても既存の規制を撤廃して自由化を進める。すでに再生可能エネルギーに対しては固定価格買取制度によって発電事業者の自由度が高くなっているが、それ以外の電力についても発電事業者が供給できる範囲を拡大する。特に電力会社以外で発電量の大きい「卸電気事業者」と「卸供給事業者」が対象になる。

 これまで卸事業者は電力会社(法律上は「一般電気事業者」と呼ぶ)にしか販売ができなかったが、今後は新電力(「特定規模電気事業者」)などにも販売できるように市場を開放して電力の供給体制を強化する(図2)。現時点で卸電気事業者に登録されているのは電源開発と日本原子力発電の2社で、卸供給事業者にはコスモ石油などが登録されている。

図2 電力の卸売に関する規制を撤廃した場合の供給関係 図2 電力の卸売に関する規制を撤廃した場合の供給関係。出典:電力システム改革専門委員会

 最後に電力改革で最大の課題になるのが送配電ネットワークの開放だ。現在は発電〜送電〜配電〜小売という一連の流れを電力会社がほぼ独占的に担っており、閉鎖的な電力ネットワークが作られている。このうち中間の送電と配電の事業を電力会社から分離することによって自由度を高め、発電事業者が各地域の利用者に電力を届けられるようにする(図3)。

 発電事業者の競争によって価格やサービスが改善されることに加えて、電力が足りない地域に全国から余剰電力を送れるようになれば、今夏のような特定地域における需給問題も解消しやすくなる。そのためには、東西間における周波数の違いを変換できる体制を大幅に強化する必要もあり、計画的かつ長期的な取り組みが求められる。

図3 送配電ネットワークを開放することによる発電と小売の競争促進 図3 送配電ネットワークを開放することによる発電と小売の競争促進。出典:電力システム改革専門委員会

 このほかにも、全国規模で電力の需給バランスを調整する役割を担う中立的な機関を設ける必要があるなど、整備すべき項目は山積している。だからこそ、できるだけ早く基本方針に沿って実行計画を決め、着実に推進していくことが重要になる。電力システム改革専門委員会は今回の基本方針をもとに、個々の改革案に対する詳細設計を2012年内にとりまとめる予定で、その実現性が注目されるところだ。

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