未開拓の巨大市場「ビル壁面」、高効率で軽い太陽電池の開発進む自然エネルギー

他の用途に利用できない「空き地」に設置したとき、太陽電池のメリットは最大になる。都市部ではビル壁面だ。ビル壁面に取り付けるためには、軽量で高効率な太陽電池が必要だ。そのような太陽電池の候補は何だろうか。

» 2013年04月03日 09時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 太陽電池の用途はまだまだ広がる。非常用電力の確保や電力の地産地消を進めるには、これまでの戸建て住宅の屋根やメガソーラー以外にも目を向ける必要がある。例えば、ビル壁面への設置だ。

 なぜビル壁面が利用されてこなかったのだろうか。壁面に設置できる「重量」に制限があるからだ。これまでの太陽電池は重すぎる。軽く、安価な太陽電池が必要だ。このような太陽電池の候補が、薄膜シリコン太陽電池である。

 薄膜シリコン太陽電池のメリットは軽いことだけではない。発電に用いるシリコンの厚さが1000分の数mm(数μm)と薄く、少ない原料で製造できる。つまり材料コストが低い。さらに、単結晶シリコンや多結晶シリコンよりも製造コストも低い。結晶シリコン太陽電池では固体のシリコン原料を1000℃以上に加熱して溶かす必要がある。薄膜シリコン太陽電池では、気体のシリコン化合物をプラズマ放電で成膜する。このため200℃程度の加熱で十分だ。少ないエネルギーで製造できることに加えて、大面積を一気に作り上げられるという特徴もある。

 ただし良いことずくめに見える薄膜シリコン太陽電池にも欠点がある。変換効率だ。産業技術総合研究所は太陽光発電技術研究組合と共同では、変換効率の課題解決に取り組んでいる。2012年3月には、変換効率10.5%という記録を達成した(図1)。

図1 変換効率が10.5%と高い薄膜シリコン太陽電池。微結晶シリコン技術を利用した。開発品の直径は5cm。出典:産業技術総合研究所

 太陽電池の変換効率を高める手法はさまざまだ。今回は、光閉じ込め技術を改善した。先ほど紹介したように薄膜太陽電池内部で発電に関わる部分は非常に薄い。このため、正面から太陽光が入ると、発電に役立つ前に光が透過してしまう。そこで、蜂の巣のようなくぼみを作り込み、光の通る経路を長くして改善した(図2)。

 薄膜シリコン太陽電池では、アモルファスシリコン太陽電池を上層に、微結晶シリコン太陽電池を下層に作り、2枚重ね(タンデム型)にして変換効率をさらに高める取り組みが進んでおり、製品化も進んでいる。今後は、ハニカムテクスチャ構造をタンデム型に応用していくという。

図2 効率改善に役立つハニカムテクスチャ構造。出典:産業技術総合研究所

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