稲作を救う太陽電池が登場、姫路市で3年間の実証実験自然エネルギー

稲作に必要なさまざまな管理コストを太陽電池の売電収入でまかなうことはできないだろうか。しかし、稲作はイネが太陽光を浴びてはじめて成り立つ。太陽電池が光を遮っては元も子もない。この矛盾を解決するための実証実験が兵庫県の姫路市で始まった。

» 2013年07月09日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
図1 実証実験を進める姫路市香寺町の位置

 姫路市で農業と太陽光発電を組み合わせた取り組みが始まった(図1)。田植えを済ませた面積1199m2の田に、太陽光発電システム4基を設置した。出力は合計17.6kWであり、大規模ではないものの、これまでにない工夫が凝らされている。

 姫路市と地元企業であるフジプレアムが取り組むのは「農地への太陽光発電設備の設置による農地の利用促進に係る実証実験」。2013年6月から、3年間の実験を重ねる。実験の主要な目的は、太陽光発電が営農維持に役立つのではないかという仮説を検証することにある。

 姫路市によれば、田のあぜ道(畦畔、けいはん)の草刈りや水の管理には意外に手間が掛かり、作業費用を負担しなければならない場合も多いという。農地を農地として使い続け、太陽光発電の売電収入で農地の管理費用をまかなうというモデルが確立できないか。これが可能なら、管理ができず増えていく遊休農地の問題が解決できるかもしれない。「今回の実証実験では1年間で約100万円の売電収入を見込む」(姫路市)。関西電力に売電する。

農業の邪魔にならない太陽光発電とは

 実証実験で利用するのは、フジプレアムの農地用太陽光発電システムである。架台が1本の支柱だけからなり、支柱の専有面積は4基を合わせても2.56m2にすぎない。営農の邪魔になりにくい。「支柱面積部分だけ、3年間、農地の一次転用許可の手続きを踏んだ」(姫路市)。

 実証実験の内容はこうだ。田に設置した太陽光発電システムはいくぶん日照を遮る。そこで営農組合に農地管理のデータ取得を市が依頼する。営農組合は農作業の作業性が損なわれないかを確認し、坪刈りによって、イネ(稲穂)の重量が減っていないかどうかも調べる。稲作終了後は麦を植えて、やはり影響を調べる予定だ。

図2 田に設置された太陽光発電システムのイメージ。出典:姫路市

機械にも工夫があり

 今回採用したフジプレアムの太陽光発電システムは、「固定されていない」。支柱を中心に太陽電池モジュールを設置した面が、太陽を追尾して回転する。このため、フジプレアムの工場での測定結果によれば、固定された同じ出力の太陽電池モジュールに比べて、発電量が1.5倍に増えるという。「正午の出力は固定されたものと同じだが、朝夕の出力が大きくなる」(フジプレアム)。

 2軸の回転により、太陽を追尾する。「実際に太陽の位置を直接測定するのではなく、緯度や経度、時刻をあらかじめ設定しておけばよい」(フジプレアム)。つまりセンサーは不要だ。回転に必要な小型モーターはどの程度電力を消費するのだろうか。「今回のシステムで回転に必要な電力は、設置したパワーコンディショナーで消費される電力とほぼ同等である」(フジプレアム)。従って、回転には発電した電力の数%しか使わないことになり、これは1.5倍という出力増と比較すると問題にならないほど少ない。

 設置した太陽電池は、図3にあるように20枚のシリコン太陽電池モジュールからなる。太陽電池モジュールを横に5枚、縦に4枚並べており、この部分の寸法が縦4.9m、幅7.9mになる。モジュールの集合体を高さ4.95mの支柱に取り付けた形だ。モジュールの下の辺から地面までは2.5mあるため、営農の邪魔にはなりにくいだろう。

図3 太陽光発電システムの寸法。出典:姫路市

 今回の実証実験の姫路市の予算は、2013年度が1006万8000円。太陽光発電システムのハードウェアや設置工事費用など、初期導入費用の半額を市が共同研究負担金(987万円)として負担し、農地管理・農作業等調査委託料として19万8000円を支払う。2年目と3年目は委託料だけの予算となることを見込む。なお、実証実験に使う田は姫路市の所有する土地である。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.