「マンション」を開拓した一括受電サービス、電力の完全自由化を待つ初めから分かる一括受電(2)

電気料金以外の負担がなく、マンションの共用部や各家庭の電気料金が削減できる一括受電サービス。第1回で紹介したビジネスモデルや導入フローに続き、今回は一括受電サービスの誕生の歴史から現在、そして今後の展望について解説する。

» 2013年12月16日 13時00分 公開
[中央電力,スマートジャパン]

一需要地一契約の原則とは

 電力業界の規制や電力の安定供給などを定めた電気事業法。戸建て住宅や商業施設、工場などは、この電気事業法によって、敷地内が「需要地の境界」であると定義されており、その敷地内では原則として複数の電気契約を締結することができないという「一需要地一契約」が定められている。

 マンションの場合、電気事業法が制定された1964年(昭和39年)にはまだ集合住宅という考え方が広まっていなかった。そのため、マンションの各戸を戸建て住宅と同じように「一需要一契約」として扱うことが一般的であった。現在も東京電力などの一般電気事業者は戸別に契約を締結している。

 第1回で解説した通り、マンションは共用部と専有部から成り立っているため、どこを需要地の境界と定義するかが難しい。見方によってはマンションの敷地全体を需要地の境界と定義することもできる。例えば各テナントが電気需要家である貸しビルなどでは、ビル全体を需要可能な境界と定義しており、高圧契約を締結している。

 マンションの一括受電サービス(高圧契約をベースにした各戸への配電ビジネス)のアイデアは、貸しビルの契約を参考にして誕生し、その後訪れる2000年代前半の小泉構造改革によって、アイデアを実現する下地が整っていった。

 2000年の電力小売自由化は2000kW以上の大口の需要家に対するものであった。大口の電気料金が安くなり、2004年に500kWまでの自由化が進んだことを契機として、まとまって高圧にすることに目をつける企業が登場し始め、一括受電サービスビジネスに数社が参入するようになった。

2種類の市場がある

 現在、一括受電サービスサービスには数多くの事業者が参入している。顔触れには特徴がある。新築マンションを得意とする事業者は大手企業が多く(図1)、既存マンションを得意とする事業者は、通信系、不動産系、そして弊社のような独立系のベンチャー企業が多い(図2)。

図1 新築マンション向けの一括受電サービスの事業者と市場占有率 出典:富士キメラ総研「一括受電サービス市場の動向2013年版」
図2 既存マンション向けの一括受電サービスの事業者と市場占有率 出典:富士キメラ総研「一括受電サービス市場の動向2013年版」

 既存マンションを得意とする事業者にベンチャー企業が多い理由は2つある。まず、新築マンションよりも導入対象となるマンションの数が格段に多いため新規参入しやすい。次に検討からサービス導入までの期間が新築マンションと比較して短く、企業規模の小さいベンチャー企業でも大手と遜色ないサービスを提供できることにある。このように今後もベンチャー企業を中心に既存マンションへの参入が増加していくだろう。

 一括受電サービスの導入数がここ1、2年で急激に増加しているのは、新築マンションの最大手である三菱地所レジデンスが2010年に一括受電サービスを導入したことがきっかけだ。多くのマンションデベロッパーが新築マンションにおいて一括受電サービスを標準採用するようになったことが大きい。現在大手デベロッパーを中心に10数社が新築マンションにおいて一括受電サービスシステムを導入している。

 さらに、東京電力が2012年に電気料金の値上げを発表したことを機に、マンションにおける電気料金の削減を実現するサービスとして、テレビや新聞などのメディアが一括受電サービスを取り上げる機会が増え、認知度が一気に高まったことも大きな要因となった。

電力自由化も後押し

 電気事業法改正による電力システム改革が順調に進めば、2016年から電力は完全自由化さえる。自由化が始まるとマンション各戸が自ら電力会社を選択する時代に入る。その際、各戸がばらばらに電力会社を選択するよりも、マンション全体で一括して交渉する方がより有利な条件を引き出せるようになる。このような観点から、一括受電サービスの存在感は一層増してくることが予想できる。

 諸外国の電力自由化後には、顧客ニーズに合わせてグリーン電力のみを販売する企業が出現した他、地域自治体が独自に電力会社を立ち上げるなどの動きが現れた。このような動きが日本でも見られるようになる可能性は高い。マンションを一棟丸ごとの契約に変え、居住者に対して安価で安心な電力供給を実現する一括受電サービスの仕組みは、電力自由化後に訪れるニーズにマッチしているといえよう。

 経済産業省の見通しでは、2020年までに一括受電サービスの導入数は100万世帯に達する。一括受電サービスによるさらなる市場創出が期待されている。

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