希少なエネルギー資源や金属資源を日本の排他的経済水域から得る国の計画が進んでいる。経済産業省の諮問機関である総合資源エネルギー調査会は、海洋エネルギー・鉱物資源開発計画の改定案を答申した。対象は大きく3つあり、「メタンハイドレート」「石油・天然ガス」「鉱物資源」である。2018年度までの調査・開発スケジュール(工程表)などを示した。
経済産業省資源エネルギー庁は2013年12月、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(以下、開発計画)を公表した*1)。従来の開発計画を改定する内容だ。日本の領海・排他的経済水域(EEZ)・大陸棚から国産資源を調達することが目的である。
開発計画が扱う資源の内容は大きく3つに分かれる。「メタンハイドレート」と「石油・天然ガス」「鉱物資源」である。
*1) 2013年4月に閣議決定された海洋基本計画に従い、諮問機関である総合資源エネルギー調査会が答申したもの。
メタン(CH4)は日常意識することはあまりないものの、重要な燃料ガスだ。都市ガスの成分のうち、約9割はメタン。都市ガスの原料である天然ガスにも80%〜99%程度含まれており、北米で大量に採集されているシェールガスの主成分もメタンだ。日本は国内で消費する液化天然ガス(LNG)の96.9%を輸入に頼っており、2011年度の総輸入量は8318万トンにも及ぶ。
メタンハイドレート((CH4)4・(H2O)23)とは、組成式からも分かるようにメタン4分子と水23分子からなる固体の化合物だ。水分子が作る立体形状の「籠」の中にメタン分子が取り込まれた形をしている。低温・高圧下で安定であり、高温・低圧では水に溶けたメタンに分解してしまう。従って、地球上では極地や深海にのみ存在する。
メタンハイドレートが分布する場所に応じて、開発計画は2種類に分かれる。砂層型と表層型だ。砂層型は水深1000m以深のさらに海底下数百mに分布するもの、表層型は水深500〜2000mの海底に分布するものだ。
最初に開発を進めるのは砂層型だ(図1)。4段階の開発を続け、民間企業の参入につなげる。2013〜2015年度は技術課題への集中的対応に当てる。2013年3月には三重県沖で世界初のガス生産実験(第1回海洋産出試験)に成功している。このような海洋産出試験を続ける一方、試験結果を分析し、技術課題を克服していく。例えばメタンガスや水とともに砂が生産される「出砂」現象への対応だ*2)。出砂は生産システムの経済性を下げてしまう。加えて、生産コスト低減に役立つ技術を開発する。効率的な連続生産に役立つ坑井設計やガスの処理・輸送方法などが対象だ。
第2段階は方向性の確認と見直しだ*3)。2015年度末ごろ、技術開発の進捗状況を検証し、スケジュールを再調整する。加えて、現時点では決まっていない表層型の開発計画を検討する。
*2) 海底の地下から石油やガスを生産する技術は確立されているが、メタンハイドレートには適用できない。なぜなら、メタンハイドレートは固体だからだ。2013年3月の試験では「減圧法」を用いた。メタンハイドレートの埋蔵地点(地下)の圧力を下げて、水とメタンに分離し、パイプを通じてメタンガスを回収する手法である。このときに出砂が起こる。
*3) 東京大学名誉教授で元国立環境研究所所長の石井吉徳氏は、メタンハイドレートは資源ではないと主張している。メタンハイドレートの総量が多いとしても、広く薄く分布していること、固体のメタンハイドレートからメタンを回収するためにエネルギーが必要であることから、エネルギー収支比(EPR)が極端に低くなるという。例えば100のエネルギーをもつメタンを回収するために110のエネルギーを使ってしまっては意味がない。このような主張に反論できるEPRの数値データがなければ、商業化には至らない。
第3段階は商業化の実現に向けた技術の整備だ。2016〜2018年度の3年間により長期の海洋産出試験を実施する。量産に入る直前の段階であるため、技術課題の他、経済性評価、周辺環境への影響を検証する。
第4段階は2019年度以降だ。2018年度からの10年間、その後半(平成30年度後半)に民間企業を中核とした体制を整備し、民間主導の商業化プロジェクトが始まるよう、国際情勢をにらみつつ、技術開発を進める。
メタンハイドレートを2つに分類したうちのもう1つ、表層型は、商業化に至る道筋が決まっていない。まずは資源量の把握に務める。既に調査は始まっている。2013年6〜7月に上越沖や能登半島西方沖で既に調査を実施しており、今後は、隠岐周辺や秋田沖、山形沖、北海道周辺の順に調査を進める。2013年度以降、3年間程度で集中的に調査するとした。
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