コストの安い石炭火力で最大の課題になっているCO2排出量の削減に向けて、世界各地で先端的な取り組みが進んでいる。三菱重工業は米国の火力発電所に設置した実証プラントで1年半に及ぶ試験を完了して、CO2を90%以上も回収できる設備の実用化にめどをつけた。
実証試験が行われたのは、米国南部のアラバマ州で稼働中の「バリー火力発電所」の構内である(図1)。大手電力会社のサザンカンパニー(Southern Company)が運営する石炭火力発電所を対象に、1日あたり500トンにのぼる大量のCO2を回収・貯蔵する試みだ。
三菱重工業とサザンカンパニーは共同で2011年6月に、CO2を回収する実証試験を開始した。さらに2012年8月からは回収したCO2を貯留する一貫処理の実証試験に取り組んできた(図2)。実証プラントでは石炭火力の排ガスを前処理する脱硫の工程から、CO2の回収・再生と圧縮・脱水、さらにパイプラインを通じて地中に貯留するまでを一貫処理することができる。
世界最大級のCO2回収能力があり、年間に15万トンのCO2を回収することが可能である。CO2の回収率は実に90%を超える。CO2を回収するための吸収液には、三菱重工業と関西電力が共同で開発した「KS-1」を採用した。KS-1は関西電力の南港発電所で実用化した技術で、CO2の回収に必要なエネルギーが少なくて済む利点がある。
CO2を回収して地中に貯留する取り組みは「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」と呼ばれ、特に火力発電所が排出するCO2を大気中に放出しないようにするための対策として注目を集めている(図3)。日本政府も地球温暖化対策の一環でCCSの技術開発を促進する方針だ。
バリー火力発電所の実証試験のうち、CO2を貯留する部分は米エネルギー省(DOE)の温室効果ガス対策プロジェクトとして進めてきた。米国は中国に次ぐ世界第2位の石炭産出国で、CCSに対する注目度は極めて高い。三菱重工業はバリー火力発電所の成果をもとに、日本や米国をはじめ世界各国の火力発電所にCO2回収プラントを拡大していく計画である。
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