火力発電の性能は「熱効率」で決まるキーワード解説

全世界の電力の約7割は火力発電で作られている。大量のCO2を排出する問題に加えて、燃料になる石油・石炭・天然ガスの価格高騰が電力会社の経営を圧迫する。有効な解決策は発電効率を高めて、燃料の使用量を抑えることだ。最新鋭の火力発電設備では熱を電力に変換できる「熱効率」が高い。

» 2014年08月26日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 東京電力をはじめ火力発電設備を増強する動きが活発になってきた。古くなった設備を廃止して、最新鋭の発電方式を採用した設備に切り替えれば、燃料の使用量とCO2の排出量を大幅に削減できるからだ。どの程度の改善を見込めるのか、その指標になるのが「熱効率」である。

 火力発電の熱効率は、燃料の熱エネルギー(発熱量)を電気エネルギー(発電量)に変換できる割合を示したものだ。石油・石炭・天然ガスは精製した状態によって発熱量が決まっている。それをもとに発電量から熱効率を計算する。

 熱効率 = 発電設備による発電量 ÷ 燃料による発熱量

 熱効率が高くなるほど、少ない燃料で多くの電力を作ることができる。石炭や石油を燃料に使う火力発電では36%程度の熱効率が標準的で、最新の設備では40%を超える。天然ガスになると熱効率は50%以上になる(図1)。天然ガスによる火力発電は熱効率が高い分だけ、CO2排出量が少なくて済むメリットがある。

図1 火力発電の熱効率の向上。石炭火力(上)と天然ガス火力(下)。出典:経済産業省

 日本の火力発電技術は世界で最高の水準にあり、石炭火力でも天然ガス火力でも熱効率の向上が著しい。ただし発電設備の熱効率を比較する時には注意が必要だ。熱効率の計算方法は4種類もあって、それぞれで少しずつ数値が変わる。

 第1の違いは、発電量を測定する場所による。発電所で作られた電力は送配電ネットワークを経由して利用者(需要者)まで届けられる。この過程で発電機から出る電力は発電所の中で一部を消費してしまう。発電機から電力を出す時点を「発電端」、さらに発電所から送配電ネットワークに電力を出す時点を「送電端」と呼んでいる(図2)。

図2 発電所から需要者に届くまでの電力系統。出典:電力系統利用協議会

 第2の違いは、発熱量の計算方法にある。化石燃料を燃焼させると水が生成されて、気体から液体に変わる時の凝縮熱が生まれる。この凝縮熱を発熱量に含める方法が「高位発熱量基準(HHV:Higher Heating Value)」で、含めない方法が「低位発熱量基準(LHV:Lower Heating Value)」と呼ばれる。HHVのほうが発熱量は大きくなるために、熱効率を計算するとLHVよりも低くなる。

 こうした2通りの違いによって、合計で4種類の熱効率の計算方法が存在する。熱効率が最も高く出るのは「発電端のLHV」で計算した場合で、最も低く出るのは「送電端のHHV」である。電力会社は「発電端のLHV」で熱効率を表すことが多い。

 経済産業省と環境省は火力発電によるCO2排出量を低減させるために、最先端の発電技術を「BAT(Best Available Technology、最新鋭の発電技術の商用化および開発状況)」と位置づけて年度ごとに公表している(図3)。電力会社などが火力発電設備を新設・更新する場合のガイドラインで、この基準に満たない発電設備の建設計画は原則として認められない。

図3 火力発電の最先端技術「BAT」の2014年度版(商用運転中の設備。赤字部分は2013年度版からの変更点)。出典:経済産業省、環境省

 BATには4種類の熱効率を併記している。2014年4月の時点で商用運転中の発電設備のBATを見ると、熱効率が最高になる「発電端のLHV」と最低になる「送電端のHHV」のあいだには5〜7ポイント程度の差がある。

 先ごろ経済産業省は2050年に向けた火力発電の技術開発ロードマップを策定したが、熱効率を「送電端のHHV」で示している(図4)。2030年までに石炭火力を46%、天然ガス火力を57%まで高めることが目標だ。2014年度のBATの熱効率と比べて、石炭火力・天然ガス火力ともに約5ポイント改善する必要がある。

図4 「高効率火力発電」の技術開発ロードマップ。石炭火力(上)と天然ガス火力(下)。出典:経済産業省

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