ヘラクレスの「戦い」を覚悟したドイツの野望と痛み、日本はどうか小寺信良のEnergy Future(1/5 ページ)

原発全廃の方針や、太陽光発電・風力発電の勢いばかりが伝わってくるドイツのエネルギー事情。だが、石炭と原子力の組み合わせから幾分なりとも脱却するには20年以上の取り組みが必要だった。ドイツで熱関連の住宅設備に取り組むスティーベルエルトロン(Stiebel Eltron)、その共同オーナーであるウルリッヒ・スティーベル博士に、企業から見たドイツのエネルギー政策とドイツの実情を聞いた。

» 2014年09月22日 07時00分 公開
[小寺信良,スマートジャパン]

ドイツ企業からみたドイツの再生可能エネルギー

 スティーベルエルトロン(Stiebel Eltron)は、日本ではあまり知名度がないものの、地中熱ヒートポンプや熱交換式換気設備の世界的メーカーだ*1)。2014年9月に住宅設備という視点から、ドイツのエネルギー政策の講演を聴くことができた。

 ご承知の通り、日本では東日本大震災以降、早急な脱原発への方法論が模索されている。だが、先行するドイツのエネルギー政策については評価が二分している。学ぶところは多いとして、多くの研究者がドイツの実績に注目する一方、固定価格買取制度(FIT)の失速や電気料金の高騰を理由に、参考にならないとする識者も少なくない。

 そのような中、当事者ともいえるドイツ企業の責任者が語るビジョンを聴くことは、ドイツが実際には何を成し遂げようとしているのか、どのような根拠に基づいて動いているのかを知るよい機会だろう。今回は幾つかの講演の中から、同社の創業者であるセオドア・スティーベル氏の息子であり、生産工学博士として多くの研究発表もあるウルリッヒ・スティーベル博士(Dr. Ulrich Stiebel)の講演に注目した(図1)。博士の講演内容を参考に、ドイツの取り組みと課題を整理してみよう。

*1) 本社をドイツのほぼ中央部にあるホルツミンデンに置く。国内では日本スティーベルがこれらの機器を扱っている。

図1 ドイツのエネルギーシフトについて語る、ウルリッヒ・スティーベル博士

なぜエネルギー政策を転換するのか

 ドイツは日本同様、天然資源の乏しい国である。石油や天然ガスは、ほとんどを輸入に頼っており、輸入コストは国民総生産(GDP)のおよそ3.5%に達している。さらにいえば、10年間で輸入量が倍に増えたため、エネルギー政策を転換しなければ、どのみち立ちゆかなくなることは分かっていた。

 そこで国内にあるエネルギーを探した結果、「自然エネルギーしかない」という結論に至った*2)。具体的には、2種類の再生可能エネルギーだ。自然から得られる風力・太陽光と、畜産業から得られるバイオガスである。

*2) ドイツでは水力発電からも電力を得ているものの、1990年から2012年までほぼ一定の発電量となっている。のびしろがない。

 エネルギーシフトの結果、現在ドイツ国内で使用されている全電力のうち、およそ25%が再生可能エネルギーによって賄われている。比率では、風力、バイオガス、太陽光・太陽熱の順だ。加えてエネルギー効率の向上を、(省エネではなく)再生可能エネルギーの1つとして位置付け、取り組んでいるところもポイントだ。

 福島第一原子力発電所の事故が後押ししたこともあり、ドイツは2011年に原発を完全撤廃することを宣言しており、着々と準備を進めている。期限は2022年。日本と違い、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故以来、粛々とエネルギー改革を進めてきていることを考えると、この目標は無理ではないようにも見える。

 しかし、チェルノブイリから30年弱取り組んで来ても、まだ25%というのが現実だ。2022年に原発を全て止めたとしても、次の課題がある。再生可能エネルギーだけで全ての電力需要をすぐに賄うことはできない。化石燃料を使う火力も止め、二酸化炭素を排出しない「カーボンゼロエネルギー社会」へ移行するには、どのぐらいの期間が必要で、コストはどの程度が掛かるのか。ドイツは、2050年までに再生可能エネルギーで100%、少なくとも80%までまかないたいという大きなゴールを掲げている。

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