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» 2014年09月22日 07時00分 公開

小寺信良のEnergy Future:ヘラクレスの「戦い」を覚悟したドイツの野望と痛み、日本はどうか (5/5)

[小寺信良,スマートジャパン]
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需要のコントロールが重要

 ドイツのエネルギーシフトに課題は多い。FITを調整するだけでは市場のコントロールは無理だ。新しい競争市場と、インセンティブが必要だ。

 現在の電力市場は、まだまだ大きな電力会社の力が強い。独占に近い*7)。しかし今後は火力、原子力、新たな参入者である太陽光、風力などを巻き込み、健全な競争メカニズムを構築していく必要がある。現在の証券や外国為替市場のように、マーケットで取引きされ、金額が決まるという市場を、エネルギー分野でも作っていくべきである。

*7) ドイツは1996年まで電力会社8社が地域独占を続けてきた。電力自由化後、電力会社同士の合併、提携が進み、現在は4グループ(E.ON、RWE、EnBW、スウェーデンVattenfallの子会社)体制となっている。その一方、ドイツでは送電子会社の売却が進み、EnBW以外はグループ内に送電子会社を持っていない。

 再生可能エネルギーは、証券市場に似ている。なぜならば、明日の供給量は予測値でしか取引できないからだ。現在でも再生可能エネルギーのスポットマーケット的なものはできており、以前は1日単位の取引だったが、次第に柔軟性が増し、1時間ごと、最近は15分ごとの取引もある。

 ただ現在のドイツでは、再生可能エネルギーの買い取り価格がかなり安くなっており、需要は高いものの、適正に供給するメカニズムが欠けているという。

 一方で、供給側の整備にとどまらず、需要側も負荷分散するために、インセンティブによって刺激していくことも必要だと、スティーベル博士は説く。ある種の巨大蓄電池ともいえる揚水発電所を作って需要に対応するよりも、発電カーブに合わせて電力を使用するよう、需要サイドを調整する方がずっとコストが安いからである(図10)。図10では需要の少ない土曜日に金曜日の需要をシフトする例が示されている。

 例えばドイツの需要ピークは、昼間の12時前後に訪れる。この時間帯には例えば、調理と洗濯を同時にしないようにする。主婦に対してそのような行動を促す何らかの金銭的なインセンティブが必要だ。大電力を食う家電の使用を電力供給過多の深夜にシフトさせたいとしよう。深夜電力料金を引き下げるといった工夫がなければ、消費者は乗ってこない。未来へのビジョンだけでは、生活習慣は変えられないからである。

図10 エネルギーシフトには、需要のシフトが必須 出典:スティーベルエルトロン

国民の納得が前提となる

 これだけ用意周到に準備してきたドイツにおいても、完全なエネルギーシフトは相当困難な道のりだ。さらにEU全体もこの方向にある。2010年に出された欧州指令によれば、28のEU加盟各国は、2020年12月31日までに全ての新築建物を、ほぼゼロエネルギー化(ZEB化)することを目標としている。

 ドイツ一国であれば、国内の気候はそれほど大きく違わないが、EU全体となると、北は北極圏、南は地中海性気候と、相当に幅がある。エネルギー需要の内容にも違いは大きく、自然を相手にする再生可能エネルギーのタイプも異なる。さらには国ごとにエネルギー政策に幅があるため、それらをどう調和させていくかは、相当な困難が予想される。加えて各国の経済状況の影響もある。ドイツは比較的好調だが、一方でギリシャのような国もある。

 EUの取り組みは、北は北海道から南は沖縄まで多種多様な気候が存在する日本にとっても、参考になるはずだ。こちらは国内の話なので、EUほどの調整の苦労はないだろう。日本には優れた発送電技術はあったが、再生可能エネルギーへシフトするための長期計画に具体性がなく、準備があまりにも不足していた。シフトのためのノウハウもインフラも市場もなく、ゼロからのスタートというところが違う。

 エネルギーシフトは、市場原理やイデオロギーだけで達成できるものではなく、「どのような国にしていきたいか」というビジョンを政府が示し、国民が納得しなければならない。だが日本のエネルギー政策に納得している国民はどれほどいるだろうか。先が見えない状況がいまだ続いている。ドイツの事例が役に立つ、立たないといった議論の前に、ドイツやEUのような明確な未来像の設計が、何よりも必要であろう。

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)


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