水素で冷える発電機、小型で安価な90万kW級蓄電・発電機器(1/2 ページ)

三菱電機は2014年12月、90万kW級の発電機に「水素間接冷却方式」を適用可能になったと発表した。付帯設備が多く、大型で導入コストがかさむ「水冷却方式」を置き換えることができるという。

» 2014年12月24日 13時30分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 1基で数十万kW(数百MVA)もの電力を生み出す火力発電所向けの大型発電機。軸の回転を電力に変換する装置だ。扱う電力が大きいため、わずかな変換損失が膨大な熱に変わる。強力な冷却手段が必要だ。

 主要メーカーは発生する熱量に応じて、3つの冷却方式を使い分けている。冷却能力が高い順に「水冷却方式」「水素間接冷却方式」「空気冷却方式」だ(図1)。水冷却方式は冷却能力が最も高いものの、装置全体のサイズが大きく、導入コストがかさむ。このため、水冷却方式を全ての大型発電機に適用することは無理がある*1)。より低コストな水素間接冷却方式を採用したい。

 「これまで容量700MVAを超える規模の発電機には冷却能力が高い水冷却方式を適用してきた。ところが、水冷却方式は冷却水用の配管やポンプ、電動機の他、純水を使うために必要なイオン交換樹脂など付帯設備が必要であるため、小型化が難しく、工期も延びてしまう」(三菱電機)。

*1) 後ほど紹介するように、水冷却方式には2系統の冷却水がある。水素間接冷却方式では、そのうち、高コストな1系統の冷却水を省略できる。

図1 3種類の冷却方式と適用容量帯 出典:三菱電機

水素間接冷却方式の能力を拡大

 同社は2014年12月9日、900MVA級の発電機に水素間接冷却方式を適用可能になったと発表した。900MVA級への適用は世界初だと主張する。水素間接冷却方式が適用可能な発電機の出力が約1.2倍まで高まったことになる。

 火力発電所向けタービン発電機の新製品である「VP-Xシリーズ」(容量870MVA)の検証試験が2014年11月に完了したことを受けた発表だ。2015年4月の発売開始を予定する。「水冷却方式と比較して導入コストも低減できた。今後、700〜900MVA帯の水冷却方式の機種を水素間接冷却方式に置き換えていく」(同社)。

 検証機の寸法は長さ13.5m、奥行き5m、高さ6m。図2に検証機の外観を示す。「検証機と販売する製品の仕様は同じだ」(同社)。検証機の回転数は毎分3600回転、出力電圧2万5000V、出力電流2万92Aである。

図2 タービン発電機「VP-Xシリーズ」 容量870MVAの検証機 出典:三菱電機

高効率、小型、易メンテナンス、短納期

 「同容量帯の水冷却方式の機種は、効率98.8〜99%。大電流が流れる導体部を小型フレームに合わせたコンパクト設計としたため、効率が幾分低下していた。今回のVP-Xシリーズは99.0%である」(同社)。VP-Xシリーズでは機内で発生する熱を最小限に抑えることができた。

 新製品には効率の向上以外にも大きく3つの特徴がある。第1に小型化できたこと。同容量の水冷却方式の機種と比較して、体積を20%縮小できた。発電所までの発電機を輸送する際の制約が少なくなり、建屋に用意する設置スペースにも余裕ができる。

 「同容量の水冷却機と比較すると、発電機本体の外形寸法は同等だが、固定子冷却水供給装置が不要になり、付属設備が少なくなるため、設置面積を削減できた」(同社)。VP-Xで開発した手法を従来の水素間接冷却機に適用することも可能だという。外形寸法を縮小する効果が期待できる。「500MVA級の発電機の場合、直径4.5mから4.1mへの縮小を計画中だ」(同社)。

 第2にメンテナンス性能の向上だ。固定子冷却水供給装置などの付帯設備がなくなったことに加え、標準で運転状態監視システムを導入したことにより、作業者が発電機本体内部を点検する回数を軽減できた。運転状態監視システムは2つある。1つは小型の点検ロボット。もう1つは点検の必要性やタイミングを判断する装置(マイクロストリップアンテナ式部分放電監視装置:PDM)だ。

 第3にコア・フレーム並行生産方式を適用することによる納期の短縮だ。材料市況により納期が前後するものの、おおむね3割程度短くなるようだ。「900MVA級の現行の水冷却機の標準納期は21カ月。水素間接冷却機VP-Xの標準納期は15カ月だ。並行生産方式の採用による納期短縮効果は2カ月であり、残りは水冷却機に必要な水冷コイル製作などの製作期間が不要になったことで短縮できた」(同社)。

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