CO2フリーの水素を下水から作る、福岡市で燃料電池車へ供給開始自然エネルギー

下水処理場で発生するバイオガスから水素を製造する世界で初めての実証施設が4月から稼働する。福岡市の下水処理場の中に水素製造装置と水素ステーションを設置して、燃料電池車に水素を供給する計画だ。生物由来のバイオガスで作る水素はCO2を排出しないクリーンエネルギーになる。

» 2015年03月30日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 福岡市の中心部に近い「中部水処理センター」の一角で、下水バイオガスから水素を製造する実証事業が4月1日に始まる。下水を処理する過程で発生する汚泥には大量のメタンガス(CH4)が含まれている。このメタンガスと水蒸気(H2O)を反応させることで水素(H2)を製造する方法だ(図1)。

図1 下水バイオガスから水素を製造する実証事業。出典:福岡市ほか

 1日に製造できる水素ガスは3300立方メートルに達して、燃料電池車65台分の供給能力になる。メタンガスと水蒸気を反応させると水素のほかにCO2も発生するが、吸着材を使ってCO2を除去する。純度100%に近い高品質でCO2フリーの水素を製造することが可能だ。たとえCO2を除去しなくてもバイオガスを使えばCO2フリーとみなせるが、CO2を除去することで吸収量が発生量を上回る「CO2ポジティブ」になる。

 実際に水素を燃料電池車に供給できるように、中部水処理センターの中に水素ステーションも建設した(図2)。水素の製造から供給までの一貫システムを構築して、水素の製造能力や品質の評価、エネルギーの創出効果を実証する予定だ。

図2 実証施設(HyLeC福岡水素ステーション)の完成イメージ。出典:福岡市ほか

 この実証事業は福岡市が「水素リーダー都市プロジェクト」として、九州大学と民間企業2社(三菱化工機、豊田通商)を加えて産・学・官の共同体制で実施する。国土交通省が下水道事業のコスト削減や再生可能エネルギーの創出を目指して推進している「下水道革新的技術実証事業(B-DASH プロジェクト)」にも選ばれている。

図3 燃料電池タクシー。出典:福岡県商工部

 水素ステーションの稼働を前に、3月25日には5台の燃料電池タクシーが福岡市内に配備された(図3)。全国で初めてトヨタ自動車の「MIRAI」を使ったタクシーで、一般の利用者でも最新の燃料電池車に乗って市内を走ることができる。この燃料電池タクシーも国土交通省による「地域交通グリーン化事業」の補助金を受けて導入したものである。

 将来は実証施設に水素の出荷設備を追加して、遠隔地(オフサイト)の水素ステーションに水素を供給できるようにする計画だ(図4)。さらに水素の製造工程で発生するCO2を回収して、地域のハウス栽培にCO2を供給して光合成を促進する構想もある。市内で毎日大量に排出する下水をもとに、環境に優しい循環型のエネルギー供給システムを構築することが最終目標になる。

図4 下水バイオガスから水素を製造するシステムの将来構想。出典:三菱化工機

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.