福岡県は固定価格買取制度による太陽光発電の導入量が全国で第1位になった。さらに10年以上前から推進してきた水素エネルギーの取り組みが新たなフェーズに入る。水素で発電する燃料電池と太陽光の組み合わせに加えて、バイオマスから水素を製造する実証プロジェクトも始まる。
いまや未来のエネルギーとして大きな注目を集めている水素だが、国内で最も早くから取り組んできたのは福岡県である。2004年に「福岡水素戦略」を開始して、水素の製造から輸送・貯蔵、利用までを一貫して支援する新しい産業の基盤づくりに乗り出した(図1)。
産・学・官が連携して先端技術の研究開発を進める一方、「水素タウン」や「水素ハイウェイ」を整備して社会実証を続けてきた。そうした成果をふまえて、新たに取り組むプロジェクトが「スマート燃料電池社会実証」である。福岡市の西部にある九州大学の「伊都(いと)キャンパス」を実証フィールドに、燃料電池を中核にした電力供給ネットワークを構築する計画だ。
大学のキャンパスの中に家庭用から産業用まで各種の燃料電池をそろえて、学内でエネルギーを自給自足できる「水素キャンパス構想」を推進していく(図2)。太陽光パネルや風力発電機を設置して再生可能エネルギーによる電力を作り、さらに電力で水を分解して水素を作る水電解装置を導入する。その水素を貯蔵するシステムもキャンパス内に設置して燃料電池車に供給できるようにする壮大な構想だ。
現在のところ家庭用の「エネファーム」をはじめ、燃料電池に使う水素の大半は都市ガスなどの化石燃料から作られている。もし大量の水素を再生可能エネルギーで作ることができれば、CO2を排出しない環境に優しい水素社会の実現につながる。伊都キャンパスの実証事業はCO2フリーの水素社会を目指した先進的な取り組みである。
同じ福岡市内の「中部水処理センター」では、下水処理の過程で発生するバイオガスから水素を製造するプロジェクトが始まっている。下水の処理施設に水素製造装置を新たに導入して、下水の汚泥から生成したバイオガスで水素を作る方法だ(図3)。併設した水素ステーションで燃料電池車に水素を供給する計画で、2015年3月までに運用を開始する予定である。
バイオガスから水素を製造する工程ではCO2が発生するが、水素製造装置に加えてCO2分離・回収装置を導入してCO2の排出を防ぐ。回収したCO2は地域のハウス栽培などで光合成を促進するために利用する計画だ。再生可能エネルギーと光合成を組み合わせて、CO2の排出量よりも吸収量のほうが多くなる「カーボンポジティブ」を目指す。
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