原子力に頼るエネルギーミックスの不確実性、2030年の電力の構図は描けない法制度・規制

2030年の電源構成に関する議論が政府の委員会で進むにつれて、原子力発電の実態を示すデータが続々と出てきた。安全性を前提に原子力の重要性を訴えるものの、多くの発電所では使用済み燃料の貯蔵容量が限界に近づいている。不確定な要素の多い原子力によって先行きは見通しにくくなる。

» 2015年04月01日 15時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 政府が将来のエネルギーミックス(電源構成)を決めるために新たに設置した「長期エネルギー需給見通し小委員会」は2カ月間で5回の会合を開いた。その中で火力・原子力・再生可能エネルギーの3種類の電源の特性を見極めることに力点が置かれている。特に原子力に関して最新のデータや政府の方針が徐々に明らかになってきた。

 エネルギーミックスを決めるにあたっては、原子力の比率をどの程度に設定するかが最大の焦点になる。原子力発電所は運転開始から40年で終了することが原則になっているため、この原則を適用すると本来ならば2049年に原子力発電はゼロになる(図1)。

図1 原子力発電所を運転開始から40年で終了させた場合の推移。出典:資源エネルギー庁

 ところが資源エネルギー庁が委員会に提出した資料では、さらに15年先の2064年にゼロになると書かれている。建設途上の3基(電源開発・大間、中国電力・島根3号機、東京電力・東通)の運転開始を前提にしているためである。経済産業大臣は「現時点で原子力発電所の新設・増設は想定していない」との立場を貫いているが、政策を担当する資源エネルギー庁は新設分までエネルギーミックスに織り込む方針だ。

 その一方で原子力事業者である電力会社には安全性に対する厳しい要求を出している(図2)。「(原子力規制委員会による)規制水準を満たすこと自体が安全を保証するものではない」と言い切り、原子力事業者(電力会社)の責任を強調する。そのうえで「規制を満たした後の残余のリスクの所在を把握。地元住民や国民等とも分かりやすく共有」することを求めた。

図2 原子力発電の安全性向上に関する基本方針。出典:資源エネルギー庁

 はたして電力会社に、それほどの強い覚悟はあるのだろうか。少なくとも現時点では、「残余のリスク」を公表して国民と共有する姿勢は見られない。資源エネルギー庁が委員会の資料に記載した方針を貫くのであれば、原子力発電所を再稼働する前にリスクを明らかにすべきである。

 リスクに関連して、使用済み燃料の貯蔵状況が深刻なレベルであることも見過ごせない。既存の原子力発電所に貯蔵している量が限界に近づきつつある(図3)。最も余裕がないのは九州電力の「玄海原子力発電所」で、容量を超過するまでの期間が3年しかない。そのほかの発電所もフル稼働すれば、10年以内に容量を超過するケースがほとんどだ。

図3 原子力発電所の使用済み燃料の貯蔵状況(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 資源エネルギー庁は「使用済燃料貯蔵対策の充実・強化は重要な政策課題の一つである」と認識しながらも、根本的な解決策は提示できていない。廃炉を含めて再稼働に至らない発電設備を決めて対策を講じなければ、使用済み燃料を抱えきれなくなる発電所が続々と出てくる。

 一方で原子力を再生可能エネルギーで代替することには消極的である。特に導入量が大きい太陽光と風力は天候の影響を受けることから、火力と組み合わせる必要性を主張する。ヨーロッパで進んでいる緻密な需給調整による再生可能エネルギーの利用拡大策は想定していない。

 その結果、太陽光と風力に合わせて火力を維持する必要があるために、エネルギーミックスで重視する自給率とCO2排出量がともに改善できなくなる(図4)。リスクのある原子力でも、火力や再生可能エネルギーよりも優先させるほうが国益にかなうと考えているわけだ。

図4 原子力を太陽光と風力で代替する場合の供給力。出典:資源エネルギー庁

 しかし現実のCO2排出状況を見ると、火力発電すべてが問題になるわけではない。電力会社10社のCO2排出係数(電力1kWhあたりのCO2排出量)を震災の前後で比較すると、むしろ中国電力は1%少なくなっている(図5)。もともと原子力の比率が低かったこともあって、再生可能エネルギーの増加がCO2排出係数を押し下げた。

図5 電力会社のCO2排出係数(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 逆に排出係数が大幅に上昇しているのは、石油の比率が高くてLNG(液化天然ガス)の比率が低い電力会社だ。北海道電力と四国電力が顕著で、関西電力と九州電力も石油の比率が2倍以上に増えてCO2排出係数は1.5倍以上になった。石油が少なくてLNGが多い中部電力では、震災後に8%しか排出係数は上がっていない。自給率とCO2排出量の両面から原子力を再稼働させるならば、その前に石油火力の全廃を決めるべきである。

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