多くの国民の反対をよそに原子力発電所の再稼働を進める日本政府には、表向きの理由とは別に2つの事情がある。1つは400社を超える国内の原子力産業を維持することであり、もう1つは東アジア地域の核拡散防止にあたって日本を最強のパートナーと位置づける米国政府の期待だ。
2030年のエネルギーミックス(電源構成)を決める重要なポイントの1つは原子力発電の位置づけだ。政府が2014年4月に策定したエネルギー基本計画では「原発依存度を可能な限り低減する」と宣言しながら、「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と定義した。
実際に2015年1月30日から始まったエネルギーミックスの検討にあたっては「再エネと同様、温室効果ガス削減の議論の中で非常に大きい役割」と強調している。CO2排出量の削減のほかにも、燃料費の削減や電気料金の抑制などが理由に挙げられているが、福島のような放射能汚染のリスクを負ってまで原子力発電所を再稼働させる根拠としては弱い。
それよりも政府にとって重要な問題が国内と国外に1つずつある。国内では長年にわたって育成してきた原子力産業を維持する狙いが大きい。プラントメーカー3社を頂点に、400社以上が発電設備の機器・部品製造や建設工事にたずさわってきた(図1)。原子力産業にかかわる人材も5万人を超える。国策で拡大してきた産業を衰退させるわけにはいかない、との判断がある。
一方で海外に目を転じると、中国や韓国をはじめアジア各国で原子力発電所が増えている(図2)。使用済み核燃料は核兵器に転用することも可能である。日本の安全保障を考えれば、核拡散の抑止力として国内で原子力発電所を運転しながら、原子力技術のレベルアップを図ることが不可欠との意見は政府内で根強い。
資源エネルギー庁がエネルギーミックスを検討する委員会に提出した参考資料の中には、米国の政府高官のコメントも引用されている。特に中国を意識して、原子力の分野で日米の協力が極めて重要であることを強調する内容だ(図3)。米国政府が日本政府に対して原子力発電を継続するように要請していることは明らかで、それをはねつける力は日本にはない。
こうした事情から、2030年のエネルギーミックスには一定の比率で原子力を組み入れざるをえない。すでに廃炉が決定している9基を除くと、国内には48基の原子力発電設備がある。このうち21基が原子力規制委員会に適合性審査を申請済みだ(図4)。21基すべてが稼働すると、発電能力は約2000万kWになる。
原子力発電の設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を高めに80%として計算すると、年間の発電量は1400億kWhに達する。電力会社10社による2013年度の発電電力量は7436億kWhで、その19%にあたる規模である。2030年のエネルギーミックスで原子力を20%に設定するための根拠になる。
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