2014年1月に決定する予定の「エネルギー基本計画」の改訂案が固まった。政府が主宰する委員会で最終案を調整した結果、一部の委員から「原子力に関する国民の意見がまったく反映されていない」と指摘があったにもかかわらず、むしろ原子力の重要性を強調する内容を随所に追加した。
国のエネルギー政策を検討する「総合資源エネルギー調査会」の「基本政策分科会」が12月13日に開催されて、懸案になっている「エネルギー基本計画」の改訂案を議論した。1週間前の12月6日に事務局がまとめた素案に対して、15人の委員のうち8人が事前に意見を文書で提出していた。
最大の論点である原子力の位置づけに関して、委員の1人である辰巳菊子氏(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会常任顧問)が痛烈に反対の意を表した。文書の冒頭で辰巳氏は「何度か分科会で申し上げた『国民の意見をきちんと聞いて欲しい』という意見は全く反映されず、このまとめに至った経緯は誠に残念です」と訴えた。
改訂案の中にある原子力政策の方向性についても「分科会の検討事項ではないと考えます。今後、政府の責任の元、決める内容かと思いますので、削除を願います 」と要求したものの、受け入れられることはなかった。事務局を務める資源エネルギー庁と大半の委員が原子力を推進あるいは容認する中で、辰巳氏が孤軍奮闘に近い状況にあることがうかがわれる(図1)。
このほかに文書で意見を提出した委員の中では、植田和弘氏(京都大学教授)が原子力に関する重要な問題点を数多く指摘した。例えば「核燃料サイクル政策やもんじゅについてはとても『引き続き着実に推進する』という記述が可能な状況ではない」と明確に反対意見を述べたものの、これも反映されることはなかった。
実際のところ12月13日に事務局が提示した改訂案には、12月6日付けの素案から表現の修正・追加が随所に加えられた。特に原子力に関する変更点が多い。原子力を「エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源」と位置づけたうえで、「電力供給においては、安定して安価なベース電源と、需要動向に応じ出力を機動的に調整できるミドル・ピーク電源を確保する」との方針を新たに示した。
国民のあいだで危機感が高まっている使用済み核燃料の問題については次の文言を追加した。「原子力利用に伴い確実に発生する使用済核燃料は、世界共通の悩みであり、将来世代に先送りしないよう、現世代の責任として、その対策を着実に進めることが不可欠である」。しかし対策をとりまとめる期限すら決めていない。極めて抽象的な表現で、責任の伴わない内容にとどめている。
その一方で「世界の原子力平和利用と核不拡散への貢献」と題した項目の中で、「核不拡散及び核セキュリティ分野において積極的な貢献を行う」という文言を追加した。国内で原子力発電所を再稼働させる背景には、世界各地で繰り広げられている核兵器をめぐる動きがあることを示唆した形だ。
原子力にはエネルギー供給の問題のほかに、軍事的な影響力が大きいことは明らかである。だとしたら、エネルギーと軍事に分けて、個別に国家戦略を決める必要があるのではないか。両方を混在させたまま玉虫色の方針を決めても、国民の理解は決して得られない。
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