世界初の「水素発電所」を東京湾岸に建設、2015年に90MWで商用化へスマートシティ

次世代のクリーンエネルギーとして注目を集める「水素」の商用プロジェクトが本格的に始まる。川崎市と千代田化工建設が2015年をメドに、東京湾岸に「水素供給グリッド」を構築するのと合わせて、世界で初めて商用レベルの「水素発電所」を建設する構想を打ち出した。

» 2013年09月17日 11時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 川崎市と千代田化工建設は共同で「水素エネルギーフロンティア国家戦略特区」を国に提案した。東京湾岸の川崎市臨海部に大規模な水素エネルギーの供給拠点を構築する計画で、中核になるのは「水素供給グリッド」と「水素発電所」の2つである(図1)。いずれも2年後の2015年に実現を目指す。

図1 「川崎臨海部水素ネットワーク」の展開イメージ(画像をクリックすると拡大)。出典:川崎市総合企画局

 水素発電所は世界で初めて商用レベルの設備を建設する。発電規模は90MW(メガワット)を予定している。CO2を排出しない発電設備として、原子力を代替する期待がかかる。年間に利用する水素は6.3億N立方メートルを見込んでいる(N立方メートル=圧力・温度・湿度に左右されないガスの実量を表す単位)。

 さらに水素とLNG(液化天然ガス)を混焼させた発電方法も試して、発電量などのデータ収集と燃焼ノウハウの蓄積に取り組む。混焼発電を実用化できれば、LNGを燃料に使う火力発電所に水素を供給して、CO2排出量の削減を図ることができる。

 一方の水素供給グリッドは大量の水素を輸送・貯蔵する技術を生かして、川崎市臨海部の各種の施設へ水素を供給できるようにする(図2)。年間の水素利用量は発電所を上回る7億N立方メートルを想定している。

図2 大量の水素を輸送・貯蔵する技術(画像をクリックすると拡大)。出典:川崎市総合企画局

 水素を輸送・貯蔵する方法としては「有機ケミカルハイドライド法」を採用する。ガスの状態にある水素を液体に転換する方法の一種で、トルエンとメチルシクロヘキサン(MCH)という2種類の液体を使う。

 トルエンと水素を反応させるとMCHになり、MCHの状態で常温・常圧のまま輸送したり貯蔵したりすることが可能になる。水素を利用する場合には逆の反応(脱水素)でMCHからガスにして取り出す。この脱水素には大量の熱が必要になるため、水素発電所の排熱を再利用する計画だ。

 すでに千代田化工建設が有機ケミカルハイドライド法を使った水素の輸送・貯蔵システムの実証試験を進めている。同じ神奈川県内の横浜市にある事業所にデモプラントと貯蔵タンクを建設して、大量輸送や長期貯蔵が可能なことを確認済みである(図3)。

図3 「大規模水素貯蔵・輸送システム」のデモプラント(左)と貯蔵タンク(右)。出典:千代田化工建設

 川崎市と千代田化工建設が提案した国家戦略特区は安倍政権が成長戦略の一環で進めるプロジェクトで、採用されると国の支援を受けながら規制にとらわれない形で事業を進めることができる。第1弾として10月中に数カ所の特区が指定を受けることになっている。

 この特区で水素エネルギーの商用化を大規模に展開しながら、新たな再生可能エネルギーとして固定価格買取制度やグリーン投資減税の対象に水素発電を追加できるようにする狙いだ。合わせて水素ガス関連の規制緩和を求めていく。

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