燃料電池の課題解決へ一歩一歩、白金の劣化プロセス解き明かす新手法開発:蓄電・発電機器(2/2 ページ)
トヨタ自動車とJFCCの共同研究グループが開発した観察手法では、0.1ナノメートルという分子レベルで物質の観察や分析が可能な「透過型電子顕微鏡」を使用し、燃料電池スタックのセル内で実際に化学反応が生じる環境および条件と同一の状態を模擬できる新しい観察用サンプルを作ることに成功した(図4)。
図4 今回開発された白金微粒子の挙動観察方法(クリックで拡大)出典:トヨタ自動車
この観察用サンプルは透過型電子顕微鏡の内部に組み込むため、燃料電池セルを模擬した極小サイズのものとなっている(図5)。これを同顕微鏡の中に組み込み、白金微粒子に電圧をかける装置も新たに開発しており、燃料電池が発電している時と同じように化学反応を起こした状態で白金微粒子を粗大化させる環境を顕微鏡の中に実現させた。(図6)。
図5・6 今回開発された観察用サンプルとその観察結果。カーボン上を白金微粒子が移動して複数が合体している様子を捉えている(クリックで拡大)出典:トヨタ自動車
今回開発された観察手法によって、白金微粒子の粗大化とは触媒の土台となるカーボン上を白金微粒子が移動し、複数が合体して大きな白金微粒子を形成する現象であることが分かった。この成果を受けてトヨタ自動車は、今後は燃料電池車の走行中の電圧変化と、その際の白金微粒子の挙動変化の関係についての解析を進めるとしている。これにより燃料電池の長寿命化や、高価な白金の資料量の低減につなげていく狙いだ(図7)。
図7 今回開発した観察手法を活用した今後の取り組み(クリックで拡大)出典:トヨタ自動車
- なぜなぜ燃料電池、実は「電池」ではないのでは?
水素やメタンから直接電力が得られる燃料電池。国内では防災機器やキャンプ用品、「エネファーム」、燃料電池車などで使われており、珍しい装置ではない。だが、電力が生まれる仕組みは火力発電や太陽電池とは異なる。水素ガスは使うが、ガスエンジンとも違う。短期連載第4回では燃料電池を解説する。
- エネルギー問題を助ける「水素」、燃料電池車に弱点はないのか
トヨタ自動車が2014年12月15日に発売する世界初の量産型の燃料電池車「MIRAI」。燃料電池車はガソリン車や電気自動車と比較して、どこが優れているのか。優れていたとしても「水素」が弱点になることはないのか。小寺信良がエネルギーからMIRAIを見た。
- 燃料電池のコスト低下へ、白金を使わない炭素系の触媒を開発
化学メーカーの帝人が燃料電池のコストを低減する新しい触媒を開発した。炭素繊維の原料に鉄を加えた「カーボンアロイ」の1種で、燃料電池の化学反応に欠かせない触媒になる。家庭用や自動車用の燃料電池に使われる高価な白金に代わる低コストの触媒として実用化を目指す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.