バイオマス発電所が森を潤す、原子力の日本海沿岸に風力と波力もエネルギー列島2015年版(20)福井(2/2 ページ)

» 2015年09月01日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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日本海から波力と風力のエネルギー

 福井県の南西部は敦賀市から始まって最も西側の高浜町に至るまで、複雑な地形のリアス式海岸が続いている(図5)。この沿岸地域には関西電力の原子力発電所が3カ所にあって、合計11基の発電設備が存在する(うち2基は運転終了)。

図5 福井県の市町と地形。出典:福井県総合政策部

 「原発銀座」と呼ばれる地域だが、近隣では波力発電の取り組みが続いている。東京大学のプロジェクトチームが越前町の海岸に「ブローホール(潮吹き穴)波力発電システム」を設置して、2014年10月から6カ月間にわたって実証実験に挑んだ(図6)。

図6 「ブローホール波力発電システム」の構造(画像をクリックすると拡大)。出典:東京大学

 大きな波が押し寄せる海岸の岩盤に穴を掘って、その穴に入ってくる波の上下動によって生じる空気の流れでタービンを回転させて発電する仕組みだ。実証実験では直径が140センチメートルある3本の穴を利用した。波力は天候の影響も受けながら常に変動するため、タービンを安定して回転させる技術の開発が実用化に向けた次の課題だ。

 これとは別の方法による波力発電システムの実証研究も敦賀市の港にある防波堤を利用して進められている。防波堤の側面にスリットが入った構造になっていて、波の勢いを吸収する効果がある。このスリットの中に垂直軸で回転する水車を設置して発電することができる(図7)。

図7 スリット式の防波堤を利用した波力発電システム。出典:大阪市立大学

 大阪市立大学が2013年9月から1年間かけて、スリットを通過する水流の速さや防波堤にぶつかる波の高さなどを計測した。このデータをもとに波力発電のシミュレーションを実施したうえで、最適な水車を設計して実用化を図る予定だ。全国にはスリット式の防波堤が数多くあることから、効率的な発電設備を開発できれば海洋エネルギーの有効な利用法になる。

 福井県の再生可能エネルギーの導入量は現在のところ全国で46番目にとどまっている(図8)。そうした状況の中でもバイオマス発電所の建設プロジェクトが広がってきたのに続いて、風力発電所を新設する計画が始まろうとしている。

図8 固定価格買取制度の認定設備(2014年12月末時点)

 北部の沿岸地域に広がる県内最大の工業団地「テクノポート福井」の中に、北陸電力グループが「三国風力発電所」を建設する。日本海に面した工業団地に大型風車4基を海に向けて設置して、発電能力は合計で8MWになる。年間の発電量は1500万kWhを見込んでいて、一般家庭で4000世帯分に相当する電力を供給することができる。

 2015年11月に着工して、2017年1月に運転を開始する予定だ。港をはさんで対岸には北陸電力の「三国太陽光発電所」があり、再生可能エネルギーの拠点が福井県の北部で拡大する(図9)。

図9 「三国風力発電所」の位置(上)、完成イメージ(下)。出典:北陸電力

*電子ブックレット「エネルギー列島2015年版 −北陸・中部編 Part1−」をダウンロード

2016年版(20)福井:「原子力の地にバイオマス発電が拡大、木材と下水から電力を作る」

2014年版(20)福井:「小水力発電で町おこし、原子力から離れた内陸部に新たな電源」

2013年版(20)福井:「原子力から太陽光や小水力へ、エネルギーの多元化に未来を託す」

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