常温常圧で水素を取り出す生体触媒を開発、白金の代替に期待蓄電・発電機器(1/2 ページ)

科学技術振興機構は、温和な条件で水素ガスを生成、分解する半合成型鉄ヒドロゲナーゼ酵素の創出に成功したと発表した。

» 2015年11月10日 13時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

 燃料電池を含む水素の工業利用については、触媒として白金などの希少金属が利用されており、コスト面や量産化の面で大きな課題を抱えている。政府などが訴える水素社会の実現に向けては、大幅なコストダウンが必須となるが、そのためには、これらの高額な希少金属の代替物質の発見が重要になる。

 一方で、自然界を見た場合、さまざまな微生物が常温常圧の通常環境において水素ガスを生産しているという状況がある。これらの微生物は「ヒドロゲナーゼ」酵素と呼ばれる生体触媒を用いて水素ガスの活性化を実現している。今回の研究開発で実現したのは、このヒドロゲナーゼ酵素の創出に成功したというものだ。

 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業において、マックスプランク陸生微生物学研究所のグループリーダー嶋盛吾氏らの研究グループは、大量合成が可能なタンパク質中に化学的に合成した金属化合物を取り込むことで、常温常圧の温和な条件で水素ガスを生産または分解する半合成(部分的に生合成を用い残りの部分を別の手法で合成すること)型鉄ヒドロゲナーゼ酵素の創出に成功した。

ヒドロゲナーゼ酵素を大量生産するという問題

 ヒドロゲナーゼ酵素は現在世界で3種類が発見されている。その1つである鉄ヒドロゲナーゼ酵素は、さまざまな有機物に水素添加の化学反応を促進することから、有用物質生産やエネルギー貯蔵など化学工業に有効利用できるとされてきた。また水素生産にも活用できる可能性も指摘されてきた。

 自然界では、鉄ヒドロゲナーゼ酵素はメタン生産菌で生産(生合成)されるが、メタン生産菌は大量培養が難しい微生物で、工業製品に必要な大量生産が難しいとされてきた。一方で、大量培養が可能な大腸菌などの遺伝子組み換え技術によってさまざまな酵素を大量生産できることが知られているが、既知の遺伝子情報では、大腸菌がこの鉄化合物を合成することはできず、触媒機能を持つ鉄ヒドロゲナーゼ酵素の生合成は成功していない(図1)。

photo 図1 天然の鉄ヒドロゲナーゼ酵素の構造の模式図(金属化合物の部分) 出典:JST
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