年明け早々に北朝鮮が水素爆弾の実験に成功したと発表したこともあり、水素に対して恐怖心を抱く人も少なくないが、適切に使えば水素の危険性は低い。原子力のように放射能汚染のリスクはなく、火力発電のようにCO2(二酸化炭素)を排出することもない。
日本は世界に先がけて水素社会の構築に動き出した。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは水素で走る燃料電池車や燃料電池バスを導入して、クリーンエネルギーの先進性をアピールする予定だ。ただし現在のところエネルギー源として使われる水素の多くは化石燃料から製造したもので、製造工程ではCO2が発生してしまう(図1)。
水素をクリーンエネルギーとして利用するために、CO2を排出しない再生可能エネルギーで製造する方法がある。すでにバイオマスから水素を作る取り組みが始まっている。太陽光や風力発電で作った電力を使って水素を製造する試みも活発になってきた。2016年は再生可能エネルギーからCO2フリーの水素を作るプロジェクトが全国に広がっていく。
先頭を切ってCO2フリーの水素を推進してきたのが福岡県だ。福岡市の中心部にある下水処理場では、2015年11月に世界で初めてバイオガスから作った水素の供給サービスを開始した(図2)。生活排水の処理に伴って発生するバイオガスで水素を作り、1日に燃料電池車65台分の水素を供給することができる。
下水から生まれるバイオガスの主成分はメタンガス(CH4)で、これと水蒸気(H2O)を反応させると水素(H2)と二酸化炭素(CO2)に変化する。その後にCO2を吸着して純度の高い水素を製造する方法だ(図3)。バイオガスは再生可能エネルギーとして発電に利用することもできるが、水素に転換すると燃料電池にも用途が広がる。クリーンエネルギーの活用範囲が社会全体に拡大する。
下水のバイオガスから水素を製造する試みは神奈川県の横浜市でも始まった。基本的な仕組みは福岡市のプロジェクトと同様だが、下水処理場の中に燃料電池を導入して電力と熱も供給する(図4)。大都市で毎日発生する大量の下水バイオガスから電力・熱・水素を作って、エネルギーを地産地消することが狙いだ。2020年度に運用開始を目指す。
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