太陽光エネルギーの長期保存が可能に、化学反応で「熱」として貯蔵自然エネルギー(1/2 ページ)

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、太陽光エネルギーを蓄積し、後で必要な時に熱エネルギーとして放出できる新しい素材を開発したと発表した。この透明高分子素材は、窓や衣服などさまざまな用途で活用できるという。

» 2016年01月20日 11時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

 日中の太陽エネルギーは事実上無尽蔵だが、それを利用できる時間は1日の半分以下である。太陽が出ていない夜間や、雨などの天候などによっては、太陽エネルギーの供給を受けることができないからだ。太陽エネルギーを家庭のエネルギーの中心に据えるためには電気の形でエネルギーを蓄積し放電する仕組みを開発する必要があった。しかし、今回新たに発見された方法は、より高い効率で太陽エネルギーを方法を提示している。それは、化学反応を利用して太陽エネルギーを熱として放出できるというものだ(図1)。

photo 図1 開発された太陽光蓄熱高分子の層。それぞれについて厚さが4〜5マイクロメートル 出典:MIT

 この新たな発見は、MITの教授 ジェフリー・グロスマン(Jeffrey Grossman)氏と、博士研究員のデビッド・ジトミルスキー(David Zhitomirsky)氏、大学院生のユージン・チョー(Eugene Cho)氏によって行われ、学術誌「Advanced Energy Materials」に掲載された。

 太陽熱の長期間の保存を確保し貯蔵安定性を実現するポイントとなったのが化学変化である。熱そのものを保存するのではなくて化学変化の形で貯蔵することにより、熱が時間とともに放散するのを防ぐことが可能となる。一方で熱の放出については、熱や光や電気の小さな衝撃をトリガーとして行われることになる。放出のきっかけになるようなことがおきなければ、エネルギ―を保持し続けることが可能だという。

2つの構造を持つ分子

 この効果を実現するカギになったのが「2つの異なる構成のどちらかの状態で安定する」という特性を持った分子だ。日光にさらされると光のエネルギーが分子の形態を「充電」の構成に変形させる。その状態で長期間とどまることができる点が特徴だ。一方、特定の温度や特定の刺激など限られた条件が与えられると、その分子は熱の放出を行って、元の形状へと戻るという(図2)。

photo 図2 上部は赤外線カメラでの熱放出の様子をモニターしたもの。太陽エネルギーを充てんしたフィルム(右)の熱の放出量が、充てんしていないフィルム(左)に比べて多く、温度が高いことが分かる 出典:MIT

 太陽熱燃料(STF)のように、化学的な変換をベースにエネルギーを蓄積する材料の開発は、グロスマンと彼のチームによる研究を含め、今までにさまざまな研究機関で行われてきた。しかし、これらは液体溶液中で使用されるように設計されており、固体用途においては非常に限られたものしか存在しない状況だった。今回発見された新しいアプローチでは、固体材料をベースとしており、安価な材料と幅広い製造技術に基づいた最初のものとなるという。

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