太陽電池の新顔「ペロブスカイト」、18.2%の記録が意味するもの蓄電・発電機器(2/3 ページ)

» 2016年03月30日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

ペロブスカイトを使わないペロブスカイト太陽電池

 ペロブスカイト太陽電池は、色素増感太陽電池を改良する中で登場した。最初期の論文は、桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科で教授を務める宮坂力氏のグループが2009年に発表したもの*3)。ペロブスカイト構造を採る物質を2種類用いた。その後、日本の他、フランス(EPFL)と韓国(KRICT)で研究が著しく進み、中国の研究者の勢いも著しいという。

 ペロブスカイトとはチタン酸カルシウムの別名。だが、ペロブスカイト太陽電池ではチタン酸カルシウムは用いておらず、これと同じ結晶構造(ペロブスカイト構造)を採る物質を用いる*4)。現在でも宮坂氏が用いたのと同じ物質の薄膜を用いた研究が多い。例えばヨウ化鉛メチルアンモニウム(MAPbI3、MA:メチルアンモニウム=CH3NH3)だ。

*3)Organometal Halide Perovskites as Visible-Light Sensitizers for Photovoltaic Cells。ヨウ化鉛メチルアンモニウムと臭化鉛メチルアンモニウムを用いており、ヨウ化物の変換効率を3.8%、臭化物は3.13%と報告している。
*4)鉛原子(Pb)を取り囲む6個のヨウ素原子(I)が八面体構造を作る。ヨウ素原子は隣同士の鉛原子で共有されているため、鉛原子とヨウ素原子の比は1:3となる。この構造が上下左右につながった中にMAや後述するFAが入り込んだ立体構造が太陽電池の発電層として機能する。

変換効率の記録が意味するもの

 ペロブスカイト太陽電池セルは急速に性能改善が進んでおり、2015年3月時点では、22.1%のセルが世界記録だ*5)

 今回のNIMSの成果は変換効率の数字だけを見ると、最高記録には及ばない。しかし、より確実で、実用にも近いものだといえる。なぜなら、1平方センチメートル(cm2)という「大きな」セルで高い変換効率を得たからだ。太陽電池関連の論文でもセル面積が標準かどうかで記録を分けて評価している*6)

 NIMSによれば高い変換効率を得た太陽電池セルの多くは、0.1cm2程度の小面積での記録であり、測定誤差が大きく、測定手法が公開されていないなどの課題があるという*7)

*5) 米NRELが2014年3月19日に発表した各種変換効率の記録では、韓国化学研究所(KRICT)と韓国の蔚山科学技術大学校(UNIST)が共同で発表した22.1%を挙げている。
*6)例えば「Progress in Photovoltaics誌」(米John Wiley&Sons)に掲載された「Solar cell efficiency tables(version 47)」によれば、ペロブスカイト太陽電池の記録は、2015年11月時点で、NIMSの15.6%(セル面積1cm2)である(関連記事)。同誌は例外的な記録としてKRICTの20.1%(セル面積0.095cm2)を挙げている。
*7) 小面積セルからモジュールまで変換効率の推移を公表している企業もある(関連記事)。

実は発電の仕組みが未解明

 今回の太陽電池セルの断面構造を図3に示す。電流を生み出すのは赤色で示したペロブスカイト層だ。

 「現在、論文投稿中のため、詳細の膜厚と組成は開示できませんが、主な組成は、電子抽出層にTiOx(酸化チタン)、電子輸送層にはPCBM(フラーレン誘導体)、ペロブスカイト層にMAxFA1−xPbIBr、ホール抽出層にNiO(酸化ニッケル)のようになっています」(韓氏)。

図3 ペロブスカイト太陽電池セルの構造 太陽光を下面から受ける。ガラス基板を含まない層全体の厚さは数百nm。出典:NIMSが公開した図版に本誌が組成を追加。

 シリコン太陽電池などほとんどの太陽電池は、電子が過剰なn型半導体と正孔が過剰なp型半導体を組み合わせたpn接合を含んでいる。pn接合によって太陽光が生み出した電子・正孔対を分離し、電流として外部に取り出している。ところが、ペロブスカイト太陽電池には目立ったpn接合が存在しない。どのように動作するのだろうか。

 「(pn接合については)いろいろな考え方があります。われわれは、p型のペロブスカイト結晶はn型PCBMとpn接合を形成していると考えています」(同氏)。

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