2016年4月1日の電力小売全面自由化を控え盛り上がりを見せる電力小売市場。「電気料金が下がる」「再生可能エネルギー中心の小売電気事業者が増える」などさまざまな市場の変化に期待が高まっている。しかし、その期待は裏切られるかもしれない。電力自由化で先行するフランスの状況を、同国で電力比較サイトを運営するセレクトラの共同創業者であるグザビエ・ピノン氏に電力自由化の動向を聞いた。
2016年4月1日の電力自由化に向けて、市場の変化に対する大きな期待が高まっている。従来地域ごとに寡占化されていた約8兆円ともいわれる電力市場の開放に、多くの異業種企業が参入を発表。地域外参入や他サービスの複合提案など、複雑化する料金プランの問題などをはらみつつも市場はにぎわいを見せつつある。
「市場が変わる」という大きな期待感の一方で、現実を見れば「思ったほどは変化しなかった」ということも可能性としては存在する。電力自由化の先行国の例としては、よく英国やドイツの例などが紹介されているが、これらの国々は「市場が変わった」国の例であるといえる。一方で、電力小売自由化となっても「それほど変わらなかった」国がある。フランスだ。
本稿では、フランスで創業し現在、スペイン、ポーランド、イタリア、ポルトガルなどで電力比較サイトを運営している、セレクトラ(Selectra)の共同創業者で代表であるグザビエ・ピノン(Xavier Pinon)氏のインタビューを通じ、電力自由化で「変わらなかった例」としてのフランスの動向をお伝えしたい。
スマートジャパン フランスの電力自由化後の状況をどう見ていますか。
ピノン氏 フランスでは2007年に電力が自由化されたが、ある調査では「フランス国民の55%しか電力を選べることを知らない」という調査結果が出た。それだけフランスでは電力を選んで買うものだという認識は広がっていないといえる。電力自由化以前から1社のほぼ独占で電力を供給してきた「EDF」が現在でも供給電力の89%を提供しており、11%だけが新電力に入れ替わったという状況である。フランスの状況だけを見ると、電力自由化によって大きな変化がもたらされたとはいえない状況だといえるだろう。
スマートジャパン なぜ、フランスでは変化が起こらなかったのでしょうか。
ピノン氏 1つには既存の電力会社が強すぎたというのがあるだろう。日本では電力会社の独占から開放するといっても地域分割制で10社の電力会社が存在していた。そこでそれぞれの電力会社が地域外にサービス展開することでも新たな競争が起こり市場が活性化するということが期待できる。
しかし、フランスでは国内の電力会社は第二次大戦後にほぼ1社にまとめられ、1社でフランス全土に電力を供給しているという状況だった。そのため、フランス人の中には電力会社が複数存在するということ自体が理解しがたい状況だった。実際に新規契約の場合で見ても、EDF以外の電力を選ぶ顧客の比率は29%にとどまっており、71%はEDFとそのまま契約しているという状況がある。EDFに次ぐのがガスの独占企業であった「ENGIE」であるが、電力ではEDFとは大きな開きがある。逆に自由化でEDFはガスに進出しているが、ガスではEGNIEが圧倒的でEDFでも切り崩せないという状況だ。
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