電力システム改革を「貫徹」する新たな施策、2020年に向けて実施へ動き出す電力システム改革(70)(1/2 ページ)

政府は小売全面自由化や発送電分離を柱とする電力システム改革を「貫徹」するため、6項目にわたる施策の検討に入った。電力会社が石炭火力や原子力で作る低コストの電力を市場で取引するよう促す一方、再生可能エネルギーと原子力を合わせた「非化石電源」の取引市場も創設する方針だ。

» 2016年09月29日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

第69回:「電気料金に影響する託送料金の見直し、電力の地産地消を促す体系に」

 経済産業省が「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」を9月27日に新設して、市場競争を加速するための方策や新制度の検討を開始した。「貫徹」の2文字に政府の意欲が込められているが、それほど電力市場の改革に向けて難問が山積していることを示している。

 新しい委員会で検討する項目は6つある。電力市場に公平な競争環境をもたらす狙いがある半面、電力会社が抱える原子力や火力発電の課題を解決するための施策も盛り込まれている(図1)。2020年4月に実施する発送電分離(送配電部門の中立化)に向けて、電力会社の発電事業と小売事業の競争力を左右する重要な施策の導入が進んでいく。

図1 電力システム改革の「貫徹」に向けた検討事項。出典:資源エネルギー庁

 6つの検討項目の中でも特に注目すべきは2つの新市場の創設だ。1つは「ベースロード電源市場」、もう1つは「非化石価値取引市場」である(図2)。いずれも原子力発電の再稼働を前提にした市場になるため、現時点では実効性を判断しにくい状況だ。合わせて火力発電を対象にした「容量市場」の創設も検討項目に入っている。

図2 電力の供給・調達環境を改善するための新市場。出典:資源エネルギー庁

 ベースロード電源市場を創設する目的は、電力会社が抱える発電コストの低い電力を広く市場で取引できるようにすることにある。ベースロード電源には石炭火力、大規模な水力、そして原子力の3種類が含まれる。電力会社の供給力を支える電源で、発電した電力の大半を自社の小売部門を通じて販売している。

 新規参入の小売電気事業者に供給される量は極めて少なく、電力の調達コストに格差が生じる一因になっている。この問題を解消する手段として、ベースロード電源市場を創設して電力会社から安価な電力を市場に供出させる狙いだ(図3)。新規参入者が低コストの電力を調達して価格競争力を発揮できるようになる。

図3 「ベースロード電源市場」の実施イメージと期待効果。出典:資源エネルギー庁

 資源エネルギー庁が電力会社と新規参入事業者の電力供給計画を集計したところ、両者のあいだにはベースロード電源の比率に大きな開きがあった。10年後の2025年度の計画では、電力会社が供給する電力のうち3割以上をベースロード電源が占めるのに対して、新規参入事業者では4.6%に過ぎない(図4)。原子力の再稼働を見込みにくいことに加えて、電力会社が他社に供給していない現状を想定した結果だ。

図4 電力会社と新規参入事業者の供給計画による電源構成(画像をクリックすると拡大)。LPG:液化石油ガス、LNG:液化天然ガス。出典:資源エネルギー庁

 ベースロード電源市場を有効に機能させるためには、電力会社に一定量の電力を市場に供出するように義務づける必要がある。特に原子力に関しては、国策民営の方針をもとに多額の国家予算を投入して推進していることから、可能な限り市場に供出することが求められる。

 原子力の発電コストが低いのは、電力会社が負担する費用が小さくて済むためである。立地自治体の交付金のほかにも、今後の増大が見込まれる使用済み核燃料の処理費用や老朽化した発電設備の廃炉費用の一部を国や国民が負担することになる。その結果で生まれる安い電力のメリットは国全体で共有するのが妥当だ。

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