政府が検討を始めた電力システム改革を「貫徹」する施策の中には、電力会社を優遇する案が盛り込まれている。火力発電所の投資回収を早めるための新市場の創設や、原子力発電所の廃炉費用を電気料金で回収する新しい制度だ。電気料金を上昇させる要因になり、国民の反発は避けられない。
第71回:「地域を越えて電力を取引しやすく、連系線の運用ルールを改正へ」
電力システム改革の最大の目的は、旧来の電力会社を中心とする硬直的な産業構造を崩し、多数の新規参入事業者が競争できる自由で公平な市場環境へ移行することにある。企業や家庭が使う電力の選択肢が増えて、競争によって電気料金も下がる。政府が推進する施策は自由競争を促すものであるべきだが、その目的に見合わない新制度の検討が進んでいる。
1つは火力発電を対象にした「容量市場(容量メカニズム)」の導入だ。政府の委員会で検討中の卸電力取引所の改革案には、原子力発電の電力の取引を可能にする「ベースロード電源市場」や「非化石価値取引市場」と並んで、「容量市場」の創設が組み込まれている(図1)。
従来の電力取引は発電量で売買する方式だが、容量市場では発電設備の容量(最大出力)で取引する。たとえ発電設備が稼働していない状態でも、発電事業者は容量に応じて一定の売電収入を得られる仕組みだ(図2)。
容量市場が創設されると、火力発電の稼働率が低下しても初期投資(固定費)を回収しやすくなる。その分のコストを小売電気事業者や送配電事業者が負担することになり、電気料金を上昇させる要因になる。
なぜ容量市場を作らなくてはならないのか。その理由として、委員会を主催する資源エネルギー庁は太陽光発電や風力発電の増加を挙げている。太陽光と風力の発電量は天候によって変動するため、電力会社は火力発電の出力を調整しながら需要と供給のバランスをとっている(図3)。
ところが太陽光や風力などの再生可能エネルギーが今後さらに増えていくと、火力発電で供給する電力が減って稼働率が低下してしまう。固定価格買取制度で売電収入が長期に保証されている再生可能エネルギーに対して、火力発電は稼働率によって売電収入が大きく変動することから、初期投資を回収できなくなるおそれが高まるわけだ(図4)。
こうした状況を回避するために、火力発電の売電収入を発電量だけではなくて発電設備の容量でも得られるようにする。これが容量市場を創設する狙いだ。実際に容量市場の対象になる発電設備の条件をどのように設定するかによって、恩恵を受ける事業者は変わってくる。既設の火力発電所を対象に含めた場合には、電力会社が最大の恩恵を受けることになる。
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