もう1つ検討中の新しい制度は、原子力発電所の廃炉費用の負担に関するものである。国内には建設中の3基を除いて合計57基の原子力発電設備がある。このうち事故を起こした東京電力の「福島第一原子力発電所」を含めて15基の廃炉が決まっている(図5)。さらに今後も老朽化した原子力発電所の廃炉が増え続ける。
原子力発電所の廃炉には通常のケースで30年近い期間と1基あたり500億円以上の費用がかかる(図6)。廃炉の処理が広範囲に及ぶ福島第一では全体で2兆円の廃炉費用を想定していたが、さらに増大することが確実な状況だ。これだけ巨額の費用を電力会社は電気料金で回収できる仕組みになっている。
さらに2015年に実施した廃炉会計制度の改正によって、廃炉の費用を長期に分割して回収できるようになった(図7)。電力会社の経営に大きなインパクトを与えずに廃炉を進めるための措置だが、ここで問題になるのが長期間にわたって電気料金で費用を回収する方法だ。
電力会社が確実に廃炉の費用を回収できる方法として、送配電部門が事業者から徴収する託送料金(送配電ネットワークの使用料)に上乗せする案が浮上している。これまで託送料金は小売電気事業者が負担してきたが、2020年度から発電事業者も負担する形に変わる見通しだ(図8)。
送配電ネットワークは発電事業者と小売電気事業者の両方が利用することから、両者で費用を分担する形になる。どちらにしても最終的には電気料金に反映されるが、そこに原子力発電所の廃炉費用を上乗せすると、当然ながら電気料金は上昇する。
本来は原子力発電所を所有する電力会社の発電部門が負担すべき費用を、他の事業者の電力を利用する需要家にまで負担させようという内容だ。原子力に反対する国民からの反発は必至で、具体的な制度の設計には相当の議論を必要とする。
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