電力顧客管理システムの選び方、自社導入か共同利用か電力自由化で勝者になるための条件(20)

小売電気事業者にとって顧客管理システムをどのような方法で構築するかは重要な選択になる。ITベンダーが提供するシステムもあれば、他の小売電気事業者が外販するシステムもある。最近ではインターネットサービス会社が従量課金モデルのクラウドサービスを安価に提供し始めた。

» 2016年10月12日 15時00分 公開

連載第19回:「小売電気事業者に求められる計画策定業務、システムで効率化を図る」

 小売電気事業者に欠かせない電力顧客管理システムの導入方法には、以下のようなさまざまなタイプがある。

ITベンダーが提供するシステム

  • オンプレミス(自社導入型)
  • クラウドサービス(共同利用型)
  • モジュール(必要な機能だけを導入)

小売電気事業者が提供するシステム

  • オンプレミス
  • クラウドサービス

インターネットサービス会社が提供するシステム

  • クラウドサービス(月額利用型、一括支払い型)

 ITベンダーの電力顧客管理システムのうち、クラウドサービスは需要家の数に応じた従量課金モデルが多い。初期投資を抑えることができるため、中堅・中小の事業者に向いている(図1)。

図1 電力顧客管理システムの選定傾向

 ただし中期的に多数の需要家の獲得を目指す事業者にとっては、ある時点で自社専用のシステムを導入するオンプレミス方式に切り替えた方がコスト面でもメリットがある。オンプレミス方式はハードウエア・インフラとソフトウエア・パッケージを買い取る必要があるため、初期投資が大きくなる。3年程度で一定の需要家を獲得する想定でないと投資対効果が見合わない。

 2016年4月に小売全面自由化が始まるまでは、ITベンダーの電力事業のノウハウをはじめ、事業継続性(制度設計の追随能力)やサポート体制、導入コストが判断基準になってシステムの採用が決まっていた。ところが事業者ごとにカスタマイズ費用が膨らむ事態が数多く発生して、一部の機能の実装を先送りするケースも見られるようになった。

 2016年4月以降は、事業戦略の変更に追随するコストとスピートが最も重要となっている。ITベンダーの多くは広域機関(電力広域的運営推進機関)のスイッチング支援システムや送配電事業者のイレギュラーな処理に対して、ソフトウエア・パッケージを使って柔軟に対応できていない

 ソフトウエア・パッケージを使わずに、従来から企業向けの電力を販売してきた小売電気事業者のシステムを利用する方法がある。需給管理などの業務を含めて委託するケースや、顧客管理システムの仕組みをそのまま利用するケースも多い。

 今後も制度の変更やガス小売全面自由化、発送電分離などに加えて、他業態からの参入が増加していく。そうした状況では事業戦略を柔軟に変更できることが競争力を左右する。業務の改善と合わせてシステムの仕組みをいかに安く、スピーディに改修できるかが極めて重要である。

 この点でインターネットサービス会社が提供するパブリック型のクラウドサービスは注目に値する。セールスフォース・ドットコムのForce.comやアマゾンのAWS(Amazon Web Services)などである。

 パブリック型のクラウドサービスには開発スピードを上げる手法が組み込まれているため、カスタマイズ費用を最小限に抑えられるのと同時に、戦略変更に伴うシステム改修も短期間に実施できる利点がある。将来の事業拡大や事業統合・合併に伴うスケールアップに対しても、少ない投資で対応することが可能になる。

 以上のほかにも、社内の既存業務で使っている顧客管理システムと広域機関のシステムを組み合わせる方法や、さらに簡便なExcelと広域機関のシステムを組み合わせる方法もある。特に事業の立ち上げ段階では、さほどコストをかけずにスモールスタートできるメリットがある。

連載第21回:「ノウハウが重要な需給管理システム、ベンダー選定は実績とコストで」


著者プロフィール

平松 昌(ひらまつ まさる)

エネルギービジネスコンサルタント/ITコスト削減コンサルタント。外資系コンピュータベンダーやベンチャー事業支援会社、電力会社の情報システム子会社を経て、エネルギービジネスコンサルタントとして活動中。30年間にわたるIT業界の経験を生かしてITコスト削減支援および電力自由化における新電力事業支援を手がける。Blue Ocean Creative Partners代表


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