理論限界を突破、シリコン利用の太陽電池で30.2%太陽光(1/3 ページ)

量産可能な太陽電池で変換効率30%の壁を突破したい。ドイツのフラウンホーファー研究所はこの目的に一歩近づいた。シリコン基板と他の材料を組み合わせたこと、組み合わせる際に、マイクロエレクトロニクス分野で実績のあるウエハー接合装置を利用したことが特徴だ。高い変換効率と低コストを両立させる技術開発だといえる。

» 2016年11月15日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 ドイツのフラウンホーファー研究所(Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems)は2016年11月9日、ケイ素(シリコン)を利用した太陽電池セルで変換効率が30.2%に達したと発表した(図1、図2)。

 今回の太陽電池セルは、「シリコン層+それ以外の半導体層A+それ以外の半導体層B」という3層構造になっている。同研究所によれば、シリコンを用いたこのような形式の太陽電池セルでは、30.2%が最高記録だという。

図1 ウエハー上に並ぶ試作セル セルの面積は4平方センチメートル。一般的な太陽電池セルと同様、表面電極と裏面電極を備える 出典:Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems
図2 試作セルの性能評価(I-Vカーブ) 出典:Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems(Fraunhofer ISE calibration laboratory)

半導体の種類を選んで高効率化

 太陽電池の変換効率を高める戦略は幾つかある。まずは半導体の種類だ。

 光を電力に変えるには、半導体特有の性質であるバンドギャップを利用する。半導体の種類が決まると、バンドギャップの数値が決まる。

 大まかに言えば、バンドギャップが大きいほど太陽電池の出力電圧が高まる。バンドギャップが小さいほど出力電流が多くなる。出力電力は「電圧×電流」で決まるため、最適なバンドギャップの値があるはずだ。太陽光のスペクトルに基づいた理論計算によれば、約1.4電子ボルト(eV)程度の値になる。

 この値に近いのが、ガリウムヒ素(GaAs)だ。バンドギャップの値は1.43eV。

 ガリウムヒ素は太陽電池の材料として優れているものの、ガリウムの資源量が少なく、シリコン半導体と比較にならないほど高価なため、用途が人工衛星などに限られている。

 量産が進んでいるのは、バンドギャップが1.1eVのシリコン太陽電池だ。フラウンホーファー研究所によれば、理論効率は29.4%だ*1)

*1) 同研究所によればシリコン太陽電池の世界記録は変換効率26.3%。

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