人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)と東京大学、東京理科大学は、NEDOプロジェクトにおいて助触媒の自己再生機能を有する光触媒シートを開発した。その結果、人工光合成の社会実装に向け重要な酸素発生機能の寿命を、従来の20時間程度から1100時間以上へ飛躍的に向上させることに成功したという。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで、大手化学メーカーなどが参画する人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)と東京大学、東京理科大学は、助触媒の自己再生機能を有する光触媒シートを開発した。その結果、人工光合成の社会実装に向け重要な酸素発生機能の寿命を従来の20時間程度から、1100時間以上へ大幅に向上させることに成功した。
NEDOとARPChem(参画機関:国際石油開発帝石、住友化学、TOTO、ファインセラミックスセンター、富士フイルム、三井化学、三菱化学)は、「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」で、太陽エネルギーを利用して光触媒によって水から得られる水素と、二酸化炭素を原料とした基幹化学品(C2〜C4オレフィン)製造プロセスの基盤技術開発に取り組んでいる。このプロジェクトは、3つの研究開発テーマで構成され、二酸化炭素排出量の削減に貢献可能な革新的技術開発の1つとして、中長期的に推進すべき研究として位置付けられている(図1)。
3つの研究テーマのうち、光触媒開発については、2021年度末に最終目標の太陽エネルギー変換効率10%の達成を目指して研究開発を進めている。太陽エネルギー変換効率とともに重要なこととしては、光触媒の寿命や耐久性があり、この寿命や耐久性は、最終的にはコストに影響することから、研究開発の段階から検討すべき項目とされている。
このほどARPChemと両大学は同プロジェクトで、粒子転写法プロセスにより酸素発生機能を有する光触媒シートを開発した。さらに、この光触媒シートを水中に入れた場合、ニッケル鉄混合酸化物(NiFeOx)が光触媒表面に固定化され、この光触媒の助触媒(光触媒本体と組み合わせることで触媒反応を促進する物質)として機能し、光触媒表面から脱落、溶解しても、自己再生されることを見出した。その結果、従来は助触媒の脱落、溶解により、酸素発生機能の寿命が20時間程度であったものを、1100時間以上という長寿命を達成させることに成功した。
今回の技術の開発は、光触媒を用いた人工光合成システムを社会実装する上で重要な光触媒の長寿命化に関する新たな指導原理を示した画期的な技術に位置付けられているという。
光触媒シートでは、太陽光を吸収する光触媒の表面に、水素発生や酸素発生などの化学反応を促進する「助触媒」と呼ばれる物質を固定化して、動作させることが一般的だ。助触媒としては、水素発生用には白金やロジウム等の貴金属が用いられ、酸素発生用には鉄、ニッケル、コバルトなどの酸化物が用いられる。これら助触媒は、通常は厚さ数10ナノメートル以下の薄膜または同様のサイズの微粒子として、スパッタ法(真空蒸着に類する薄膜製造の代表的な方法の1つ)等を用いて光触媒上に固定化されるが、水分解反応を長時間行う過程で助触媒が水中に脱落、溶解してしまい、光触媒の長寿命化を妨げる大きな要因となっていた。
この課題を解決するために、世界最高水準の酸素発生機能を有する可視光応答性光触媒であるバナジン酸ビスマスの粉末をガラス基板上に塗布し、その上に導電層としてニッケルとスズを蒸着、その後、導電層および光触媒層を剥離する粒子転写法プロセスにより、酸素発生機能を有する光触媒シートを開発した(図2)。
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