小水力発電所が農山村に復活、ため池には水上式の太陽光発電エネルギー列島2016年版(36)徳島(1/3 ページ)

「自然エネルギー立県」を目指す徳島県では農山村で発電プロジェクトが拡大中だ。山間部の高低差を利用した小水力発電所が42年ぶりに復活したほか、農業用ため池では水上式の太陽光発電所が運転を開始した。水素エネルギーの導入にも積極的に取り組みながら電力の自給率を引き上げていく。

» 2016年12月27日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 徳島県の東部に人口2500人の佐那河内村(さなごうちそん)がある。四国山脈の東の端に位置する村の山中に、国と村が共同で建設した「新府能(しんふのう)発電所」が2015年10月に運転を開始した(図1)。

図1 「新府能発電所」の所在地と設備構成。出典:農林水産省

 農業用水路を活用した小水力発電所で、発電能力は45kW(キロワット)と小さめだ。取水池から発電所まで450メートルの導水管で送られてくる水流の落差は130メートルもある。ただし水量が最大で毎秒0.04立方メートルしかないために発電能力が限られる。

 水車発電機には少ない水量でも効率的に発電できるベルトン型を採用した。ベルトン型はノズルから水を勢いよく射出して水車を回転させる仕組みで、水量が少なくて落差が大きい場合に有効だ。新府能発電所ではヨーロッパで実績があるイタリア製の水車発電機を導入した(図2)。

図2 新設した発電所の建屋(上)、水車発電機(下)。出典:佐那河内村役場

 年間の発電量は25万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して70世帯分に相当する。発電した電力は全量を固定価格買取制度で売電して、事業主体の佐那河内村には年間に875万円の収入が入る見通しだ。事業で得た収益は農業用の排水施設の維持管理費などにあてる。

 新府能発電所が稼働した場所の近くには、かつて「府能発電所」があった。今から95年前の1921年に運転を開始して、1973年に廃止した小水力発電所だ。当時は川に沿って290メートルの水流の落差があり、最大300kWの電力を供給していた(図3)。

図3 旧・府能発電所の設備。頭首工(左)、水車発電機(右)。出典:徳島地域エネルギー

 佐那河内村が再生可能エネルギーを活用した地域づくりを推進するために、42年ぶりに小水力発電所を復活させた。発電所に水を送り込むヘッドタンク(上部水槽)を改修したほか、ポリエチレン製の導水管を発電所まで敷設した。

 新しい発電所の建屋は旧・発電所よりも154メートル高い位置にある。旧・発電所まで現在も農業用水路でつながっている。この間の水流を使って「新府能下段発電所」の建設を検討中だ(図4)。ヘッドタンクや導水管を新設すれば、150メートルの落差の水流で発電できる。稼働中の「新府能(上段)発電所」と同程度の発電量を見込める。

図4 「新府能下段発電所」の建設計画。出典:徳島地域エネルギー

 小水力発電のほかにも佐那河内村では、四国電力グループが運営する「大川原ウインドファーム」(風車15基、発電能力1万9500kW)や、地域住民の共同出資による「佐那河内みつばちソーラー発電所」(発電能力120kW)が稼働している。木質バイオマスを活用した熱供給プロジェクトも計画中で、化石燃料に代わる再生可能エネルギーの導入量をますます増やしていく。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.