世界最大級6MWの水素製造プラント、電力貯蔵と製鉄のCO2を削減自然エネルギー(2/2 ページ)

» 2017年02月10日 07時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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水素を使うと製鉄のCO2排出量を減らせる

 オーストリアで始まったH2FUTUREプロジェクトでは水素製造プラントの稼働後に、約2年間にわたって実証事業に取り組む計画だ。水素製造プラントを送配電ネットワークに接続して電力の安定化を図りながら、製造した水素を製鉄のプロセスに適用してCO2の削減効果を検証する。

 製鉄には原料の鉄鉱石から酸素を除去する必要があり、一酸化炭素を使って酸素を除去する方法が一般的である。しかし同時にCO2を排出するため、製鉄業における温暖化対策の重要な課題になっている。一酸化炭素の代わりに水素を使って酸素と反応させれば、排出物は水だけになる。日本国内でも水素と一酸化炭素を組み合わせてCO2の排出量を削減する製鉄プロセスの研究開発が進んでいる(図4)。

図4 水素(H2)と一酸化炭素(CO)を使って二酸化炭素(CO2)の排出量を削減する製鉄プロセス。出典:日本鉄鋼連盟

 もう1つの実証テーマである電力の安定化は、送配電会社のAPGが中心になって取り組む。電力の需給バランスに応じて水素を製造しながら、揚水式の水力発電と組み合わせた効果も検証する予定だ。一般に電力を貯蔵する方法としては各種の電池(バッテリー)を使うほかに、大容量の貯蔵方法として揚水式の水力発電が世界各地に広がっている。ただし揚水式は大規模なダムを必要とすることから、自然環境に与える影響が大きい。

 再生可能エネルギーの電力を使ってCO2フリーの水素を製造・貯蔵する方法は環境に対する負荷が小さい。しかも貯蔵量を柔軟に調整できるうえに、長期にわたって貯蔵し続けることが可能だ(図5)。貯蔵した水素を燃料電池に供給すれば、再びCO2フリーの電力に転換できる。

図5 水素製造装置(SILYZER 200)による電力貯蔵量。CAES:圧縮空気エネルギー貯蔵、Pumped Hydro:揚水式水力。出典:Siemens

 H2FUTUREプロジェクトには水素製造プラントの建設費を含めて、総額で1800万ユーロ(約21億円)を投じる予定だ。このうち3分の2にあたる1200億ユーロを、欧州委員会(European Commission)が主導する「FCH JU(燃料電池・水素共同事業)」から拠出する。FCH JUは燃料電池・水素エネルギーに関する研究開発と普及促進を目的とした官民共同の組織である。

 日本でも経済産業省が中心になって水素エネルギーの製造・貯蔵・輸送・利用をテーマに技術開発を推進している(図6)。福島県内に10MW級の水素製造プラントを建設するプロジェクトを計画中で、2020年に運転開始を見込んでいる。このプラントでも再生可能エネルギーの電力からCO2フリーの水素を製造する。

図6 「革新的水素エネルギー貯蔵・輸送等技術開発」の対象テーマ。出典:経済産業省
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