安い電力を売買する「ベースロード電源市場」、原子力を拡大する施策にも動き出す電力システム改革(81)(2/2 ページ)

» 2017年02月14日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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新電力の調達量の3割を目安に市場へ

 国内の電源の状況を見ると、電力会社10社と電源開発、日本原子力発電の合計12社で全体の85%を占めている(図4)。このうち約4割がベースロード電源だ。今のところ原子力発電は一部の電力会社しか運転できていない。水力と石炭火力は電源開発が保有する発電所でも電力会社に供給する契約を結んでいる。

図4 発電設備容量の上位30社。MW:メガワット(1000キロワット)。出典:資源エネルギー庁

 電源開発は東北電力に次いで6番目に多い電源を保有している。水力と石炭火力を合わせたベースロード電源は1200万kW(キロワット)にのぼるが、そのうち新電力に供給している割合はわずか3.6%にとどまる(図5)。

図5 電源開発の発電設備容量と新電力に対する供給状況。( )内は国全体の電源に占める比率、[ ]内は電源開発内の比率。出典:資源エネルギー庁

 2020年4月に発送電分離を実施すると、電源開発は電力会社の発電部門とも競争しながら、小売電気事業者に電力を供給する必要がある。政府はベースロード電源市場の創設と同時に、電源開発が電力会社と結んでいる従来の契約を見直すように求めていく。

 同様に電力会社に対しても、ベースロード電源のうち一定の規模を市場に供出するように新たな制度を設ける。現在の案では新電力の調達量の3割を目安に、電力会社と電源開発のベースロード電源を市場で取引できるようにする方針だ。電力会社が自社の供給力として見込んでいるベースロード電源の比率は2025年度の時点でも3割を超える(図6)。新電力に同等の条件で電力を調達できるようにして健全な競争状態を作り出す。

図6 電力会社と新電力の電源構成の比較(画像をクリックすると拡大)。LNG:液化天然ガス、LPG:液化石油ガス。出典:資源エネルギー庁

 政府はベースロード電源市場の詳細について引き続き検討を進めていく。長期の安定電源になることを想定して、取引の単位は1年以上に限定する(図7)。1年間に数回の入札を実施する案が有力で、新電力に優先権を与える入札方式を採用する見通しだ。

図7 電力市場の課題と新たに整備する市場・制度。出典:資源エネルギー庁

 ただしベースロード電源市場が立ち上がると、見かけ上は発電コストが低い原子力の拡大につながる可能性が高まる。政府の委員会がまとめた原案では、次のような表現で原子力のメリットを強調している。

 「ベースロード電源、特に原子力発電所については、地方自治体や地域住民の理解・協力はもちろんのこと、各地域の電力会社による安全投資や、現場の弛まぬ努力等により、これまで建設・運営が行われ、各事業者の供給区域における電源として活用されてきた。今後、ベースロード電源市場の創設等に伴い、地域を跨がる電気の取引が拡大されることとなれば、その恩恵が安価な電気という形で全国に裨益することとなる。こうした状況においても、全国大で得られたベースロード電源のメリットが引き続き、地場産業や雇用への貢献を通じて、地域に着実に還元されることが期待される。」

 原子力発電所の立地自治体と周辺地域には、ベースロード電源市場の創設によってメリットがもたらされるということだ。再稼働を推進する政府の思惑が見てとれるが、はたして市場を通じて原子力による電力を大量に購入する新電力がどのくらい出てくるか。各社の電源構成で原子力の比率が明らかになり、需要家が離脱するリスクは免れない。

 ベースロード電源市場で優先すべきは再生可能エネルギーの水力である。新電力が大規模な水力発電所の電力を長期にわたって安く購入できなければ、ベースロード電源市場の価値は薄れる。電力会社の利害よりも、再生可能エネルギーの電力を安く需要家に届けることを優先して、新市場の制度を設計することが望まれる。

第82回:「CO2排出量ゼロの電力に高い価値、2017年度から新市場で取引開始」

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