建築廃材や竹でもバイオマス発電、中小水力は全国1位エネルギー列島2016年版(43)熊本(3/3 ページ)

» 2017年02月21日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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山間部の用水路に小水力発電所

 熊本県は年間の日射量と降水量が多く、太陽光発電と水力発電に適している。固定価格買取制度の認定を受けた発電設備の規模では、太陽光発電が全国で第8位に入り、中小水力発電は第1位に躍進した(図9)。これまでに12万kWを超える中小水力発電設備が認定を受けている。

図9 固定価格買取制度の認定設備(2015年11月末時点)

 温泉で有名な内陸部の小国町(おぐにまち)では、農業用水路を利用した「馬洗瀬(もうらせ)小水力発電所」が2016年9月に運転を開始した。明治時代に造られた用水路から水を引き込み、約30メートルの落差で水車を回転させて発電する(図10)。発電能力は22kWである。

図10 「馬洗瀬小水力発電所」の水車発電機(左)、農業用水路(右)。画像をクリックすると拡大。出典:グリーンコープ

 小水力発電の標準的な設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を50〜60%で計算すると、年間の発電量は10万kWh程度になる。一般家庭の30世帯分だが、地域の資源を生かして電力を地産地消できる意義は大きい。小国町の元町長が立ち上げた再生可能エネルギーの事業会社が生活協同組合と共同で発電所を運営する。

 小国町から南へ下った山都町(やまとちょう)では、もっと規模の大きい水力発電所の建設プロジェクトが始まっている。町内を流れる鴨猪川(かもししがわ)から広がる農業用水路の水を発電にも利用する計画だ(図11)。

図11 「鴨猪水力発電所」の建設予定地。出典:九電みらいエナジー

 山の斜面の下に発電所を建設して、水流の落差は260メートルになる(図12)。最大で毎秒1立方メートル弱の水量を利用できる。発電能力は1990kWに達する予定だ。2018年7月に運転を開始して、年間の発電量は960万kWhを見込んでいる。2700世帯分の電力になり、山都町の総世帯数(6600世帯)の4割をカバーできる。

図12 水力発電所の建設イメージ。出典:九電みらいエナジー

 山都町では老朽化した水力発電所の改修工事も進んでいる。熊本県内で1906年に創業したJNC(旧チッソ)が約100年前に稼働させた2カ所の水力発電所を改修中だ。1916年に運転を開始した「内大臣川(ないだいじんがわ)発電所」と、1919年に運転を開始した「津留(つる)発電所」である(図13)。

図13 JNCが運営する水力発電所の改修(リニューアル)計画。出典:JNC

 いずれも発電に利用する取水量は変えずに、水車や発電機を高効率な設備に更新して発電能力を引き上げる。このところ全国で増えてきた水力発電所の「リパワリング」の典型的な事例である。2カ所を合わせて1万8000kWから改修後には1万9000kWへ増強する計画だ。

 総事業費は93億円にのぼる。2020年から2021年にかけて運転を再開して、年間の発電量は2万7700世帯分を想定している。発電した電力は一部を自社の工場で利用して、残りを固定価格買取制度で売電する予定だ。

 JNCは熊本県を中心に13カ所の水力発電所を保有している。そのうち10カ所の改修を決定して、順次工事を進めているところだ。老朽化した設備を更新して発電量を拡大しながら、固定価格買取制度を通じて売電収入を増やす。JNCは1950年代に水俣病を引き起こしたチッソの事業を引き継いだ会社で、現在は化学品や高機能素材を製造・販売している。新たに水力発電事業を成長分野の1つに位置づけてリパワリングに取り組む。

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